花火 の商品レビュー
陰鬱でグロテスクで幻想的な短編集。 ダークな世界観に浸りたいときにはよいかもしれない。 ただあまりに世界観がどくとくすぎて、素面で読むとツラいものがある。我にかえったら負け。 こういった耽美路線の作品は原著で読んだほうがおもしろいかも。
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一人の歌手のコンサートのDVDを意を決して観る。痛ましい気持ちに捕らわれてしまってどうにもならない気分から抜け出せなくなる。その気分を更に上塗りするようにアンジェラ・カーターの「花火」を読んでしまう。 Calling、才能というのは、やはり天から降りてくるものなのだろうか。小さ...
一人の歌手のコンサートのDVDを意を決して観る。痛ましい気持ちに捕らわれてしまってどうにもならない気分から抜け出せなくなる。その気分を更に上塗りするようにアンジェラ・カーターの「花火」を読んでしまう。 Calling、才能というのは、やはり天から降りてくるものなのだろうか。小さな肉体から絞り出されてくるように流れていたものは、その言葉とは裏腹に枯れることなどないように見えていたというのに。天はその肉体を素通りして言葉と音楽を地上に降ろしはするものの何もその歌い手に与えようとしないのか。その印象は手元の本からもまた立ち上る。アンジェラ・カーターの文章を成す夥しい装飾は、その過剰さも手伝ってまるで自動筆記された夢を読んでいるようだと思えてくる。 夢なのであれば、そこに意味を問うても仕方はないことであると思いはするけれど、言葉の余りの強さに眩暈を覚え、何とか平衡感覚を取り戻そうと脳はもがく。考えてみれば花火とはそうしたものだ。その美しさは暗い空というキャンバスに描かれた光そのものの中に存在するというよりも、光が消えた後に目に焼きついた残像の中にこそ存在しているのかも知れない。春の桜を後から愛しんで思い出すように。 そうだとすれば、一つ一つの光や色にこだわり過ぎることなく、ぱっと見てぱっと余韻を味わうしかないのだろう。アンジェラ・カーターの花火もそれと全く同じことであるような気がしてならない。決して読み易いとは言い難い文章を、なるべくテンポよくなるべく速く読み切り、突き放されたようなエンディングの後から想起されてくる様々な思いに耳を傾ける。そこに物語の内容が蘇ってこなくても構うことはない。 それにしてもこの淫靡な響きはどこからやって来るのか、と右脳に主導権を譲った筈の左脳がうずく。暗い空へ次々に投げ込まれる美しい眩い光と同様に、非現実的な物語の中に投げ込まれる性のイコン。そこには歓びもなく、かと言って哀しみもなく、ただ何かを吸い寄せるような淫靡さだけが光り輝いている。それはもちろん儚く消えてしまうより他には存在価値がない。そうであるからこそ尚更、残像は美しいものとしてまぶたの裏側に焼きつき脳細胞に定着する。ただそれだけのことである。 思えば、神の子である、と歌っていたあの人の歌もまた、一夜限りの真夏の夜の夢だったのかも知れない。もう一度輝いて欲しいと思っているのだけれど。
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