マンツーマンレッスン の商品レビュー
独創的な文体に好みが分かれそうだが内容は悪くない
フランス書院文庫の【第8回・官能文庫大賞】で最終選考に残った作品。型にハマっていない文体は確かにデビュー作らしいと思わせる。特に35歳の人妻と28歳の主人公が交互に描かる前半では、それぞれの主観的な表現ではなく地の文で描写されるのが特徴的であり、そもそも登場人物がこの2人だけなの...
フランス書院文庫の【第8回・官能文庫大賞】で最終選考に残った作品。型にハマっていない文体は確かにデビュー作らしいと思わせる。特に35歳の人妻と28歳の主人公が交互に描かる前半では、それぞれの主観的な表現ではなく地の文で描写されるのが特徴的であり、そもそも登場人物がこの2人だけなのもイマドキ珍しいと言える。 夫がフランスへ長期出張中の有閑マダムっぽい人妻が、いずれ夫の元へ赴くためとフランス語を習得すべく家庭教師として主人公を招くのが本作の骨子。フランス書院だからではなくガチでフランスである。そのため主人公にはフランスからの帰国子女的な設定あり、作中にもフランス及びフランス語の薫りが随所に漂っている。この辺りは、昼下がりをアンニュイに過ごす人妻(の独り言)と共に少々鼻に付くかもしれないが、元より気にもかけていた主人公への感情と貞操観念との狭間で揺れ動く心情をじっくり描き出している良さはある。 その前半だが、実は人妻の自慰と主人公の妄想が中心である。レッスンを重ねる度に服装が大胆になっていく人妻を目にしながら妄想を逞しくする主人公に対して、主人公の居ない時に想いを募らせて自慰に耽る人妻という好対照な描写に男女の違いが出ているようで興味深い。また、自慰の“お相手”が夫から次第に主人公へと変わっていくところで心境の変化も表している。 お互いが想いを寄せ合うのに双方の遠慮や背景(主人公もフランスに彼女がいる)があって切り出せないところもきちんと盛り込み、人妻のちょっとした機転で理由というか大義名分を見つけてからようやく結ばれる後半は、読み手も同様に焦らされているのでなかなかの興奮を伴っている。夫への裏切りと憂いつつも念願成就に似た感慨に浸り、夫との違いを感じながら、それさえも快感に転化してく人妻と、その人妻への想いが果たされて歓喜に沸く主人公。この2人がぶつかり合う淫靡な情交である。しかも、タガの外れた人妻がその後には予想外な積極さも見せ、これに反応して玄関先で早々に挑みかかる主人公という爛れたエスカレートも興奮を高めている。 しかし、終わりは急にやってくる。正直「あれ?」という唐突さに行き場を少々失うが、許されない男女の現実的な顛末としては妥当かもしれない“大人のひと夏の恋”に余韻を感じることができれば相応な読後感となって心に残るものもあると思う。
DSK
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