ラヴ・ジェントリ の商品レビュー
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回送先:目黒区立目黒本町図書館 一見すると、絢爛華美さ特有の嫌味っぽさが付いてまとうのだが、実のところは詳細に組み込まれたさまざまな葛藤を「ボーイズラブの世界で許されていること」のお約束事に回収することなく、経済的には成功したけれどもアイデンティファイに問題があるひとりの自立した男性としての側面をなぞらえながら鮮やかに描き出している。しかしその描写と切り取りは一見しただけではわからない。 事実評者も、設定として配置されている「帝都紳士会」が第二次大戦以前から存在する典型的な男性同盟の構造体なのではないかという先入観があったことを率直に認めよう。一読してその先入観は氷解し、男性同士の結合関係が時代によって変遷するなかで、現在の異性愛男性たちが同性をどのようなまなざしのもとに置いているのか―それをホモソーシャルとラベリングすることなく―というボーイズラブが長らく表面には置いてこなかった永遠の問題に取り組みつつ、しかしそうした問題をいわば邪険に扱ってきたセレブもので取り組んでいる姿勢には素直に素晴らしいという賛辞を贈ろうかと思う(セレブものの多くは攻めの経済的成功でそうした問題にケリをつけたという姿勢をとることが多い。これは「受けも攻めも経済的に成功した者同士」という本書同様の設定であっても同じ見解を導き出せることができる)。 ただし、このような読みはもちろん浅見の想定している範囲とは大きく異なり、純粋におとぎ話として楽しめればいいのではないかという意見があるであろう。しかしながら、ボーイズラブもまた現実社会とのつながりのなかで男性像を模索してきた経緯を踏まえるならば、そうした模索に対して掛け値なしでその模索に真摯に向き合っている点に、本書が本書たりえる存在がある。ただし、その真意を探るには相当異なった解釈をせねばならず、そんなに個人の「属性」(本当はこんなジャーゴンは使いたくないのが評者の本音である)に回収する必要があったのかというとそうではないのではないかと思えるのが課題と言えば課題だ。 イケメンがわらわらといる目の保養と考えることのおぞましさを本書が陰ながら提供しているとしたらば、それは評者の穿った見方にすぎないのであろうか。
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