沖縄・戦後子ども生活史 の商品レビュー
沖縄大学の総長を紹介して頂く際に、事前に読んだ本。加藤総長の著書。沖縄の抱える問題ごとに歴史を踏まえ時系列に分析されています。戦後沖縄の子どもに関する問題を俯瞰するには良書。ただちょっと長い(笑)戦争が終わって6,7年間沖縄に児童福祉法が存在しなかったことや、5歳問題と15歳問題...
沖縄大学の総長を紹介して頂く際に、事前に読んだ本。加藤総長の著書。沖縄の抱える問題ごとに歴史を踏まえ時系列に分析されています。戦後沖縄の子どもに関する問題を俯瞰するには良書。ただちょっと長い(笑)戦争が終わって6,7年間沖縄に児童福祉法が存在しなかったことや、5歳問題と15歳問題の存在。米軍兵がベトナム戦争時沖縄に多く入り込み風疹が拡大したことによる障碍を持つ子孫の増加。混血児に対する差別。子どもが多いことと離婚率が高い事による問題。米兵の少女暴行事件と宮森小学校へのヘリコプター墜落。多くの沖縄の子どもに関する事件や現象が収められています。 戦争に関する逸話も多く収録されているのですが、その中で1つ印象に残ったのは、戦時中に沖縄から内地(本土)へ大量の人が疎開しなければならなかった理由が「10万人の軍が本土から入るために10万人の沖縄の人々が疎開しなければならなかったから」ということ。考えてみれば明白なのかもしれませんが、読んだ際にはじめて腑に落ちました。それまではなぜ子ども・女性をはじめとする多くの人々が無理をして沖縄から本土へ人が移動しなければならなかったのか理解できていませんでした。これにより、対馬丸事件の受け止め方、自分の中での事件の重みも変わりました。本とは関係ありませんが、沖縄で宿泊させてもらっていた友人の祖母が、あと一歩で対馬丸に乗るところだった、という話もとても衝撃的でした。 この本を読んで一番響いた内容は「ファーガンダ」という言葉の存在。「親子」や「兄弟」と言った人間関係を表す言葉の中に、沖縄では「ファーガンダ」という「孫と祖父母」のペアを表すこの言葉があることを初めて知りました。この言葉との出会いが、個人的にこの本を読んで一番よかったことでした。この「ファーガンダ」という言葉が表す状況が内地(本土)でも当たり前になるような社会にしていきたいと、思いました。
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野本三吉といえば、小学校の先生をしていた20代の日々に、日本各地を放浪し、ヤマギシ会などのさまざまな土着共同体を探求して表した1970年の著書『不可視のコミューン・・共同体原理を求めて』で衝撃的なデビューをした人です。 その後も、横浜で児童相談員をした体験をもとに『裸足の原始人...
野本三吉といえば、小学校の先生をしていた20代の日々に、日本各地を放浪し、ヤマギシ会などのさまざまな土着共同体を探求して表した1970年の著書『不可視のコミューン・・共同体原理を求めて』で衝撃的なデビューをした人です。 その後も、横浜で児童相談員をした体験をもとに『裸足の原始人たち・・横浜・寿町の子どもたち』(1974年)を表し、ドヤ街での底辺労働者との関わりの中から『風の自叙伝・・横浜・寿町の日雇労働者たち』(1982年)などを発表して来ました。 ずっと彼は、この≪不可視≫という普通の肉眼では見えないものを、そのものの本質的なものを現場に住み着いてじっくり見つめるなどという、気の遠くなるような根気のいる日常を引き受けてまでも、探求し思索し続けているまったく独創的な稀有な思想家だと思います。 私は高校生のころに、イヴァン・イリイチの著作に牽引されながら「新たな教育を求めて・・戦後教育批判」みたいな感じでさまざまな著作を読んでいるときに、70年から80年代に比類なき尖鋭的な本を表した野本三吉と村田栄一に出会ったのでした。 それはともかく、そのあとのことを全然知らなかったのですが、91年に横浜市立大学教授に就任した彼は、2002年には沖縄大学へと移り、今は学長になられたとか。 いわゆる現場から離れて研究者となるというやつですが、社会福祉論とかこども文化学科という学問の、アカデミズムのなかに収斂されるということでいいんですね。 けっして公教育や公的制度の枠内に収まりきらない、遥か彼方の理想と真実にむかって、在野にあってもっとひた走る野性的な野本三吉を想像していたのですが、考えてみれば元々彼は堅実なところがあって、学校の先生・市役所職員・児童相談所員・・・、もうこの辺でやめときましょう。 私が勝手に彼をヒロイックに考え過ぎていただけで、それはただの幻想に過ぎなく現実とは異なるのですから。 今は教育学者という範疇でご活躍で、そして2004年には96年から刊行されていた新宿書房の『野本三吉ノンフィクション選集』全6巻が完結して高い評価を得られたとか。 沖縄を歩きたい、沖縄に住みたいといっていた彼が沖縄大学に招かれて8年が過ぎようとしていますが、2007年に出された『海と島の思想・・琉球弧45島のフィールドノート』では、島と人と海と神々と、それこそ沖縄の丸ごとすべてを、ウットリするほどの豊かな融合を鮮やかな手つきで探り出した後に続くのが本書です。 敗戦後65年間の沖縄の子供の歴史を、新聞や市町村史などあらゆる膨大な資料・文献に当たり、本島全域だけでなく離島45島をくまなく訪れて、関係者の方たちから聞き取りを重ねてまとめあげたのがこの本なのですが、沖縄独自の基地被害問題やアメラジアン(アメリカ人とアジア人の両親を持つ子供のこと。有名な『大地』の作者のパール・バックが1960年に最初に使ったそうです。ここでは、もちろん米兵と現地沖縄の女性との間に生まれた子供のこと)などだけでなく、沖縄独自の文化や共生の思想が損なわれてきた現実や経過をも視野に入れた包括的なもので、そしてそれは単なる現状報告ではなく、批判して再創造していこうとする意志的な未来に向けての宣言の書でもあるのです。
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