巴里に死す の商品レビュー
芹沢先生の本を読むと心が引き締まる。私はこの感覚が好きで、さいきん彼の作品を進んで読んでいる。 伸子が手記を通じて、ひとりの「妻」に成長していく様子が、とても快い。 教養小説の傑作だといえるだろう。 しかし、「愛」の考え方が夫婦で大きく違うと痛感させられた。 それは、宮村(夫...
芹沢先生の本を読むと心が引き締まる。私はこの感覚が好きで、さいきん彼の作品を進んで読んでいる。 伸子が手記を通じて、ひとりの「妻」に成長していく様子が、とても快い。 教養小説の傑作だといえるだろう。 しかし、「愛」の考え方が夫婦で大きく違うと痛感させられた。 それは、宮村(夫)の妻に対する言動からも読み取れる。 例えば、療養所で静養する伸子を見舞いに行くこともほとんどなく、娘・万里子の誕生日に送った電報を、結局のところ返信しなかったことなど、首を傾げざるをえない。 (伸子はその態度を東洋的として何とか納得させようとはしていたが…) また、伸子もあまり主体的ではなく、つねに宮村を主語に置いてある点が変に思った。あまりにも家父長制的だと思うのだ。 宮村は克己の人だ。だから彼は、弱点を克服し、理想像に近づこうと日々努めている。そしてそれを妻にも期待している。すると、どうなるか。伸子は理想像として「良き妻」と「鞠子」を置いてしまう。つまり、伸子は鞠子のような妻になろうと努めなければならなくなった。 (ちなみに鞠子は宮村の元恋人だ。宮村のように克己心が強く、教養も深い人である。家族との不和や生活上のすれ違いから別れざるを得なくなり、その後、伸子と結婚することになった) 伸子が良き妻になろうと努力すればするほど、鞠子に近づく。この結論は、個人の人格が大切にされる現代においては、ちょっと納得いかないようにも思われる。克己によって、洗練はされたけど、どこか疎外されてしまった人間。それは人間的というよりは神に近い存在なのだ。
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夫(宮村)には昔愛した人が居て、その相手が大変高潔な人だったらしい、と知ってしまった女性(伸子)の話 絶えず嫉妬に苛まれる奥さん。あの子供じみた態度は、女性もしっかり自立している西洋では浮くだろうし、悪目立ちもするだろう。自信がないから周りと比較して、できない点だけが目について...
夫(宮村)には昔愛した人が居て、その相手が大変高潔な人だったらしい、と知ってしまった女性(伸子)の話 絶えず嫉妬に苛まれる奥さん。あの子供じみた態度は、女性もしっかり自立している西洋では浮くだろうし、悪目立ちもするだろう。自信がないから周りと比較して、できない点だけが目について、悪循環に陥る伸子。 ただ、手記を書いている時点では、一段精神が高くなったというか、成長している。時折弱さも見せつつ、強くなった。自分を省みざるを得なくなったからかな。 ディティールは違えど、たぶん夫側の手記にあたるものが、『人間の運命』なんだろうなー。
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ノーベル文学賞候補になった。90才から「神シリーズ」を書いた芹沢光治良氏が昭和17年の戦時中に書いた作品。フランスで子どもを産み、結核で亡くなるまでの短い結婚生活を綴った女、伸子の手記を柱にしている。
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