デフレ反転の成長戦略 の商品レビュー
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デフレ脱却の兆しありとの楽観論も出てきたが、デフレ論を読み返すべく本書を手にする。 読む前に、書評二本に目を通す。 http://book.asahi.com/business/TKY201009070272.html http://togetter.com/li/314041 本書は、デフレの要因を「事業再編よりも人件費カットによるコスト削減を優先する日本企業の行動様式」にあると指摘。「賃金よりも雇用」を優先する労働組合も一棒を担ぐ役割となって、構造転換を遅らせたとする。そして、規制改革や官製市場解放を遅らせた政府も足を引っ張った。 「一国の平均賃金が持続的にマイナスに陥るまで人件費の抑制を行うのは日本だけ」であり、「低価格競争→人件費削減→低価格志向化→低価格競争→……」が日本のデフレスパイラルの要因とする。 デフレ反転には、「低生産性分野から高生産性分野にヒト・カネをシフト」させ、「産業構造を転換すること」が必要であり、それを可能とする労働市場づくりを提言する。 具体的には、(1)プロフェッショナル労働市場の形成によりイノベーション力を高める(米国モデル)(2)成長分野への転換を促す技能・賃金向上策を交えた労働市場流動性向上策(欧州型フレクシキュリティモデル)(3)普通の人々が能力を高め、緊密なコミュニケーションによりイノベーションを起こす(日本型職能システムの良さを残すモデル)を組み合わせよと提案。 とくに、興味深いのはライフステージによって働き方の要請は変化することを前提に、「入口」「出口」の改革を提案していることである。新卒一斉採用をやめ、派遣社員で技能獲得を優先、正社員を経て、子育て期には一旦限定型社員に。その後、正社員に復帰して子供が独立した暁には、収入安定の必然が後退するので、副業などを組み合わせた限定型社員や契約社員へ移行する、などのセミリタイアモデルを紹介している(208頁「ライフステージに応じた働き方ポートフォーリオの例」)。 最終章の政策大転換の提言では、成長分野へのの転換を促す政策提言を促すとともに、労使間では欧州型産業民主主義的労使交渉の実現を提案。労働組合を社会横断的な性格のものに転換し、正社員と非正社員がともに同一価値労働・同一賃金を前提に景気回復時の賃金上昇、後退時の調整を行うことが望ましいとする。(これには中高年賃金の引き下げを伴うが、子供の教育費や住居費については、公的助成の強化を提言。オランダのワッセナー合意に学び、政労使三者による雇用・賃金システムの転換を促している。なお、同時に高いスキルを持つプロフェッショナル市場は米国型で決まることが望ましいとして、とくに海外からの優秀な人材獲得に向けたスキームにも目を向けるよう指摘している。 2000年代半ば以降に、労働組合役員を担っていた際、「労働分配率イシュー」には理解が不足していたことを反省、一方で「フレクスキュリティ策への着目」は直感的であったが適切であったのかもしれないと、自らの過去の主張をレビューすることができた一冊。
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