めぐらし屋 の商品レビュー
やっぱ文章がいい。 ••• 湧き水の池と聞いてすぐ連想されるような独特の諧調のある青はなかった。ひょうたん池の水は、液体の波ではなく固体の皺が走っているようで、高台から眺めると、薄青に色づけした大きな寒天がゆらゆら揺れているみたいなのだ。
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いつまでも読んでいられる、でも立ち止まってみるとちょっとむずむずするような文章が心地よかったりするようなそわっとするような。会話の中で挙がってくるちょっとしたエピソードがどれも印象的で楽しかった。こんな風に心が動いた思い出、自分にもあるかな。登場してくる様々な人とすれ違ったなと言...
いつまでも読んでいられる、でも立ち止まってみるとちょっとむずむずするような文章が心地よかったりするようなそわっとするような。会話の中で挙がってくるちょっとしたエピソードがどれも印象的で楽しかった。こんな風に心が動いた思い出、自分にもあるかな。登場してくる様々な人とすれ違ったなと言う感覚。こういう視点で人を見つめられるのは面白いしいいなと思う。
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ゆったりとしたはやさで話が進んでいく。 結局「めぐらし屋」のはっきりした内容はわからなかったけど、亡くなった父親の優しさがほんのりうかがえるような物語だった。
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大好きな本 唯一、この人の本を読むときは、時間をたっぷり使って、じっくり読む。予定を空けて紅茶を入れ、必ず夜、本に合わせて呼吸しながら読む。 人生の指標を見失った時、何かに焦っている時。 自分がこの世に独りだけ、ぽつんと取り残された気持ちになった時。 必ずこの本に立ち返り、...
大好きな本 唯一、この人の本を読むときは、時間をたっぷり使って、じっくり読む。予定を空けて紅茶を入れ、必ず夜、本に合わせて呼吸しながら読む。 人生の指標を見失った時、何かに焦っている時。 自分がこの世に独りだけ、ぽつんと取り残された気持ちになった時。 必ずこの本に立ち返り、線を引いたところを何度も読み返す。そういう、自分の分岐点にある本だと言える。 堀江さんはよく著作の主人公に「〜さん」と付ける。初めのうちは不思議だなあと思いながら読み進めているのだが、半分も読むと、どうしてだか主人公の名前は「〜さん」込みでないといけない気がしてくる。 今回は、蕗子さん。 どこかに共感性を持って、私たちは彼女に親しみを感じることになる。 父が、亡くなった。 遺品整理をしている間にふと見つけた黒いノート。 表紙には「めぐらし屋」と書いてある。 一見、想像が付きにくいタイトルでも、読んでいるうちに、それが単に職業上の名前だけでないことがわかってくる。 「めぐらす」とは、色んなものを滞りなく流すことである。人と人との関係、自分のこと、頭の中。 そういう、普段の日常じゃ気が付かない小さなことを取り上げて、改めて私たちに伝えてくれる。 彼女があまりにも普遍的だから、なぜかふと、彼女の言動には涙が出る。 彼の書く小説は、みんな、生きている。 人が、その街でたしかに生きている。少しぼんやりしていて、窮屈だけれど心地よい中に、根付いている。読んでいると、その息遣いと、ゆったりした時間を感じ取ることができる。 現代の速度に追いつけなくなったいろんな人びとが、哀切と親しみと、ほんの微かな淡い光の中で、生きていく。 不器用なものを持って、何かに焦って生き急いでいる人こそ、この1冊に惜しみない時間と力を使い、本を読む贅沢を、よろこびを、改めて知って欲しいと思う。
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久しぶりに、家の本棚にあった本を読み、また、それが堀江敏幸さんということで、申し訳ないような、肩身の狭い思いであったのだが、読むと毎回、私にすごく合う心地よさを感じさせる、その素朴で味わい深い世界観が好きです。 主人公の「蕗子さん」が、亡くなった父の遺品を整理するために、父のア...
久しぶりに、家の本棚にあった本を読み、また、それが堀江敏幸さんということで、申し訳ないような、肩身の狭い思いであったのだが、読むと毎回、私にすごく合う心地よさを感じさせる、その素朴で味わい深い世界観が好きです。 主人公の「蕗子さん」が、亡くなった父の遺品を整理するために、父のアパートを訪れたことをきっかけに、これまで知らなかった父の面影を知っていくことで、彼女の中の過去の記憶が塗り替えられるだけではなく、そこになかった父の生き方を知ることで、彼女自身の行動指針を変えるきっかけにもなることには、親子の繋がりの存在の確かさと愛おしさを感じさせられるとともに、それが色々な人達との交流によって得られる、人情味の温かさも感じました。 そして、蕗子さんの場合、それが重苦しく描かれるのではなく(体調は悪そうだが)、不器用で真面目なのは父親譲りで、細かいところと抜けてるところがすごく平和に共存していると言っていた、友人の「レーミン」の言葉が正に彼女の個性を言い当てており、本人は悲壮感を漂わせているつもりでも、時折、ノスタルジックで素敵な語彙に、思いを馳せつつ、明るくマイペースな雰囲気で描かれるのです。 また、本書だけではないが、堀江さんの作品に登場する人物たちは、皆、地味で譲れぬものを持ちながらも個性的で、嘘臭くない人格者ばかりで、特に本書は、元大工の「宗方さん」の、明らかに相手が悪いであろう一方的な言い掛かりに対して、自分が侮辱されたことよりも、むっときた自分の度量のなさに滅入ったという話に、私の人となりを恥じたのだが、解説の東直子さんの「もういい年だというのに、あわてたり、落ちこんだり、うろたえたり、いらいらしたりしてしまうことがあるのだけれど」の文章に、今度は勇気づけられて、つくづく自分って都合のいい人間だと実感いたしました。 また、東さんの、「堀江さんの文章を読むと、とても落ち着く」にも、同様の共感を覚え、勇気づけられたことも確かです。
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まるでファミリーヒストリー見てる気分で 心の涙腺が緩々。 決して派手さは無い 一市民の家族をたどる話ながら 蕗子さんの凛と品格ある人柄にも惹かれてしまった。丁寧に生きてたい、そう思った。 堀江氏はやはり私の精神安定に寄与してくれる、大事な作家さん。
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とても良い作品。こういう雰囲気のものにはなかなか出会えない。どこかぼんやりしているのに隅々まできっちりもしている。堀江さんには他者への愛を感じる。まなざしが優しい。蕗子さんを始めとした登場人物がごく身近にいるような気がしたり、でもきっといないとも思う。日常を書きつつ同時に優れた虚...
とても良い作品。こういう雰囲気のものにはなかなか出会えない。どこかぼんやりしているのに隅々まできっちりもしている。堀江さんには他者への愛を感じる。まなざしが優しい。蕗子さんを始めとした登場人物がごく身近にいるような気がしたり、でもきっといないとも思う。日常を書きつつ同時に優れた虚構に浸れもする穏やかな佳作。
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購入したのは数年前で、当時すぐに読み始めたものの一度挫折し、今回初読了。 挫折した理由は恐らく、描写のピントが遠景から急に接写ズームになるような、文章の独特のテンポ感に私自身が対応できなかったからだと思う。 時間をおいて(そして少なからず年齢を重ねて)再度読み進め、今度こそ本...
購入したのは数年前で、当時すぐに読み始めたものの一度挫折し、今回初読了。 挫折した理由は恐らく、描写のピントが遠景から急に接写ズームになるような、文章の独特のテンポ感に私自身が対応できなかったからだと思う。 時間をおいて(そして少なからず年齢を重ねて)再度読み進め、今度こそ本作の淡く穏やかな世界に無理なく身を浸すことができたことが個人的に嬉しく、新たな読書体験となった。
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父の遺品のノートに書かれた「めぐらし屋」という文字。全く聞き覚えのないその仕事の依頼を何の気なしに受けてしまった娘の蕗子さん("さん"付けが肝要)は、疎遠だった父の足跡を辿ることになる―。地方都市に暮らす市井の人々の日常には目玉となる事件も大きな山場も存在しな...
父の遺品のノートに書かれた「めぐらし屋」という文字。全く聞き覚えのないその仕事の依頼を何の気なしに受けてしまった娘の蕗子さん("さん"付けが肝要)は、疎遠だった父の足跡を辿ることになる―。地方都市に暮らす市井の人々の日常には目玉となる事件も大きな山場も存在しないが、些細な偶然の巡り合わせは彼女の記憶の扉を開き、淡くぼやけた想い出は輪郭を帯びていく。作中に流れる穏やかで優しい空気、立体的で色味のある描写の数々が魅力的で、読み終えるのが名残惜しかった。波長が合う小説に巡り逢える喜びは何物にも代えがたいですね。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
せせこましい世に、これはのんびり感傷的で、まどろっこしいくらいだった。購入当時は、仕事が現役で、僕は読み進められなかった。7年前にリタイアして、無職の日々を送っており、ようやく読み了えられた。僕の広いストライクゾーンに、入ったのだろうか。 堀江敏幸は、三島由紀夫賞、芥川賞、他の文学賞を総なめし、各賞の選考委員も務めている(Wikipediaに拠る)。 「めぐらし屋」というのは、主人公・蕗子さんの独居して亡くなったばかりの父の、職業ではないなりわいで、「ホテルや旅館ではなくて、何日か寝起きできるようなところを紹介する」という内容である。離婚して若く亡くなった母、未完の百科事典を訪問販売するなどした父、の秘密を蕗子さんは知るようになる。蕗子さんが「めぐらし屋」を継承する場面で、小説は決着する。
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