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丸山眞男 の商品レビュー

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2023/01/29

丸山眞男の思想史研究を通じて見ることのできる、「理念」への「信」を主題的に論じている本です。 丸山の思想がもつ魅力は、「ある種精神主義とでもいえるような「理念」への「偏向」というその生き方の倫理的態度であり、またそれを生涯を通じて一貫して維持した精神の強靭さとでもいうべきものに...

丸山眞男の思想史研究を通じて見ることのできる、「理念」への「信」を主題的に論じている本です。 丸山の思想がもつ魅力は、「ある種精神主義とでもいえるような「理念」への「偏向」というその生き方の倫理的態度であり、またそれを生涯を通じて一貫して維持した精神の強靭さとでもいうべきものにあるのではないだろうか」と著者はいいます。 たとえば丸山は、キリスト教における俗権の拒否が、「現世からの逃避」を結果するものではなく、むしろ政治社会を含む此岸的な活動を相対化し批判する視点を創出したと評価していました。さらにこうした発想は、「神の前に立つ個人」の自覚に基づく政治的主体の確立を可能にしたと論じています。 丸山は、事実は事実を批判できない、事実を批判できるのは理念だけだと考えていました。本書は、こうした理念への志向が、丸山の思想史研究をつらぬいていることを明らかにします。ただし、丸山は現実の歴史から離れたところに理念を置いて事実を裁くような立場は採りません。この点で彼は、個人を超えた価値によって基礎づけられることで真の「自由」や「個人」が成立すると考える師の南原繁とは異なる立場に立っていました。歴史によって自分が拘束されることと、歴史的対照を自分が再構成することとの弁証法的な緊張を通じて過去の思想の可能性を掘り起こすことが、丸山の思想史研究だったのです。 著者は、こうした丸山の思想史研究の方法が「古層」論にも見いだせると主張します。とりわけ、講義録のなかの鎌倉仏教思想や近世の封建的忠誠、あるいは福沢諭吉などの研究に、歴史の中から歴史を超えた理念を掘り起こそうとする試みが見られることを明らかにしています。

Posted byブクログ