恥と名誉 の商品レビュー
けっこうごっつい本で(300ページあまり)、タイトルもムズカシソウで、出ているのは知っていたが、読めるかなーと思っていた。こないだ図書館にあったので借りてきて、ぱらぱらと見ると『プレシャス』のようだった。小説ではなく、この『恥と名誉』は、著者の経験を書いた実話。 寝る前にちょっ...
けっこうごっつい本で(300ページあまり)、タイトルもムズカシソウで、出ているのは知っていたが、読めるかなーと思っていた。こないだ図書館にあったので借りてきて、ぱらぱらと見ると『プレシャス』のようだった。小説ではなく、この『恥と名誉』は、著者の経験を書いた実話。 寝る前にちょっとだけ…と読みはじめたら、結局イッキ読みで3時まで。 女は親の決めたことに従って生きる、それがジャスビンダルのうまれたコミュニティの掟だった。行儀よく、聞き分けがよく、決して口ごたえや反抗などしない、いかに「よい嫁」になれる存在であるかを、親にもコミュニティの人びとにも見せなければならない娘たち。親の決めたとおり、会ったこともない相手と結婚したジャスの姉たちは、例外なくDVにあっている。姉たちは電話で、あるいは実家に戻って、夫の暴力をママに訴えるのだ。 ▼「なぜ、こんなことに我慢しなきゃいけないの?」 「それはお前が妻だからだよ…夫の面倒を見て、夫を喜ばせるのはお前の務めなんだよ」 「でも、どうして…」 「理由なんかない。お前の義務は、世間に認められるような結婚生活をし、家族の評判を落とさないことだよ。ママとパパの望みは、たったそれだけなんだよ」(pp.31-32) 涙で訴えた姉たちは、ママのその言葉に沈黙し、姉たちが帰ると、ママはジャスたちに「家族の問題だから、誰にも話してはいけない」と口止めする。家の中のことを外で話してはいけないというママの教えは、娘たちの心を強力に縛るものだった。 インドからイギリスに渡った移民の二世としてうまれ、同級生の白人の女の子たちと同じように「学校を卒業して、大学に行きたい」と望むジャスは、そう口にもするが、ママには笑われるだけ。15歳で、姉たちのように親の決めた結婚が迫ったジャスは絶望し、アウトカーストの恋人と家出をする。家族は激怒し、ママは「お前は私たちの恥だ、死んだも同然だ」と電話でジャスを罵るばかりだ。 家族の名誉を汚し、家族に恥をかかせたとして、暴力を受け、監禁され、殺されることさえある女性たちは数多くいるのだという。あるいは強制された不幸な結婚生活を終わらせようと自死を選ぶ女性もいる。 「自分の人生を生きたい」という思いと、生まれ育った家族やコミュニティから切り離されてしまった孤独感に引き裂かれ、そして、自分は罪を犯してしまったのだという罪悪感に自分自身が苦しんできたジャスは、自分と同じような経験をしている同胞女性たちの支援活動をはじめる。そこにいたる過程は、ジャス自身の回復への道のりでもある。 「パパとママは、二人が一番良いと思う人生を私に与えようとしてくれました。そのことを私は今なら、わかります」というジャスの献辞は、その道のりを経てきたからこそだと思う。名誉にかかわる暴力や殺人があることを知ってはいたが、ジャスが私と同世代であることに、あらためて衝撃を受ける。
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