残夢整理 の商品レビュー
1934年生まれ、2010年没。 青年期に戦後を過ごして来たそうした人のエッセイである。 右派ではないが、日本は確かに 敗戦を経て接ぎ木をされたというのはある。 どのように切断されて、なにが残ったのか 今からでは見えないものも多い。 それにしても、感傷的な憂いを帯びてはいるも...
1934年生まれ、2010年没。 青年期に戦後を過ごして来たそうした人のエッセイである。 右派ではないが、日本は確かに 敗戦を経て接ぎ木をされたというのはある。 どのように切断されて、なにが残ったのか 今からでは見えないものも多い。 それにしても、感傷的な憂いを帯びてはいるものの 根本的なところで明るい感じがするのは この著者自身が悔いはあれど、 生き続けて来たことに充足感を感じているのだと思える。 それだけ、死の匂いは濃厚で しかし、それは特別な悲劇ではなかった。 そういう時代を経て接ぎ木された上に、 曲芸師よろしく私たちは座っている。
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2010年4月亡くなった多田富雄氏の遺作。氏が出会った故人6名との思い出が簡潔でありながら教養と愛情に溢れた文章で綴られ、涙なしでは読めなかった。
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次第に動かなくなっていく己が身体に死が迫りくるを知り そして夢には先立った友人恩師知人が次々と姿を現す 時代に翻弄されながらも 熱き衝動に導かれるように昭和の始めを駆け抜けた6人の若きエネルギー 彼らの描写は眩い輝きを放ちながらも時に痛みを伴い 未体験の昭和という時代の空気を私...
次第に動かなくなっていく己が身体に死が迫りくるを知り そして夢には先立った友人恩師知人が次々と姿を現す 時代に翻弄されながらも 熱き衝動に導かれるように昭和の始めを駆け抜けた6人の若きエネルギー 彼らの描写は眩い輝きを放ちながらも時に痛みを伴い 未体験の昭和という時代の空気を私に夢想させる ある者は肉体的精神的な欠落を補うために ある者は戦中のプロパガンダに流されつつも冷静な個を維持するために ある者は決定づけられた人生から脱するために みな「詞」を吟じる 故人の生前はそれぞれの死に様から炙り出されるようにして鮮明な記憶のもとに描き出される 有り余る情熱の炎が魂を食らいつくように燃焼させるその様のなんと壮絶なことか 彼らの「詞」は加速度的に燃えたぎる魂の火の粉のようにほとばしり それは作者にとっての彼らとの魂レベルでのコミュニケーションツールとなって機能する それらの描写が時に痛みを伴って私の胸を締め付けるのは 私にもやがて今という時代を客観する日が来る時感じるであろう死の痛みをイメージすることができるからだろうか 著者の描写する「詞」は私たちに熱情の源泉を問い 精一杯の生を輝々とさせよと発している
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自分の心に残る人々の思い出を綴って美しい。友人、恩師や従兄に多田さんなりの別れを告げたかったのかもしれない。そして、その人との係わり方にその人の人間性が表れていて、多田さん自身を語っている。
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