地獄の綱渡り の商品レビュー
マクリーンが様々な舞台に趣向を凝らしている時期の作品で、今作はサーカス団。サーカスの花形である綱渡り芸人がスパイとなって、東側に専修し活躍する話である。 すっと「東側」と書いたけど、冷戦が歴史的事実になってしまった現代から見ると、実にわかりやすい敵味方で、むしろコミカルである。...
マクリーンが様々な舞台に趣向を凝らしている時期の作品で、今作はサーカス団。サーカスの花形である綱渡り芸人がスパイとなって、東側に専修し活躍する話である。 すっと「東側」と書いたけど、冷戦が歴史的事実になってしまった現代から見ると、実にわかりやすい敵味方で、むしろコミカルである。「反物質」を平気として使用するという部分も、筆者は大まじめに書いているけれど、なんだかおかしい。科学の持つある部分が完全に抜け落ちている。 サーカスを舞台にして、特殊な能力を持つ男たちがチームとなって戦う、というアイデアは悪くないのである。マクリーン自身が発明したと言ってもいいような趣向で、現代の戦隊ものに至るまで、成功を収めている手法なのだ。 ただ、主人公たちがあまりにもすごすぎて、逆に敵がかわいそうになってくるというか、馬鹿馬鹿しくなってくるのである。主人公からして、綱渡りと空中ブランコの名手(世界1だということである)であるばかりでなく、雑誌一冊ぱらぱらとめくるだけで全部暗視してしまうという超能力の持ち主である。しかも、敵ばかりか味方を欺くような複雑な作戦をたやすく発案する頭脳を持っている。いくらなんでも、やり過ぎじゃないかと僕は思う。 もう少し後の時代の作家だったら、せめてサーカス団のナンバー3くらいを主人公に据えて、困難を乗り越える中で成長していくような物語を作るに違いない。敵だって、最初は主人公よりも強くて、最初はかなわない主人公が最後は勝つようなカタルシスを持ってくるだろう。 が、この時期のマクリーンはそんな「細かい」ことは気にしない。天才的な主人公を全面に立て、敵ばかりか味方まで、登場人物ばかりか読者まで煙に巻きながらぐいぐいと物語をすすめていく。 あれこれ書いたけど、僕はその「ぐいぐい」した感じがなかなか好きである。難しいことを考えず、流れに身を任せていくのはなかなか快感なのだ。この小説の場合、ちょっと最後のアクションシーンがわかりにくいきらいがあるけどね。
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