経度の発見と大英帝国 の商品レビュー
本書は第5回日本修士論文賞を受賞した論文という事で、学術論文ですが、極めて難解ということはなく、門外漢にとっての読みやすさは担保されていると思います(通常の本では使わない語彙も散見されますが、それは学術論文のスタイルという事で許容範囲でした)。主題はイギリスで18世紀に設立された...
本書は第5回日本修士論文賞を受賞した論文という事で、学術論文ですが、極めて難解ということはなく、門外漢にとっての読みやすさは担保されていると思います(通常の本では使わない語彙も散見されますが、それは学術論文のスタイルという事で許容範囲でした)。主題はイギリスで18世紀に設立された「経度委員会」。経度を正確に計測できる方法を考えだした人に報奨金を与えるという事で、当時の大英帝国の海外領土拡張と科学の発展にとって極めて重要な組織だったとのこと。そしてこの組織の生い立ちから解散まで、そしてそれに関わった政治家、海軍関係者、アカデミクス(一枚岩ではなく、自然誌系と天文・数学系の対立などもある)からの多面的な分析が記述されています。 私はビジネスマンで本テーマに関して完全な門外漢なのでわかりませんが、いくつかの点でこれまでスポットライトがあてられてこなかった側面が記述されているのでしょう、その意味で学術的貢献度が高い、ということだとは思います。また冒頭に述べたように、一般読者にとっても極めて面白い論文だとは感じましたが、ビジネスに携わっている人間からすると、どうしても違う切り口が欲しくなると思います。ただおそらく私が興味のある切り口については「他の学術論文で十分議論されているのでそちらをご参照ください」ということなのかもしれません。 具体的に私が興味を持った視点の例を挙げると、経度の測定におけるイギリスと他国との競争。本書内では「航海年鑑」の質についてイギリスとフランスとの比較などが本書で登場して、最終的に航海年鑑の発行部数が圧倒的に多い事からグリニッジ天文台が基準とされたとあります。これはビジネスにおけるスタンダード獲得競争という視点からきわめて興味深く感じました。イギリスの計測方法は他国よりも精度が高かったのか(技術優位性)、あるいは精度よりも普及の面で他国より群を抜いていたのか(マーケティング優位性)、などなど。本書を読んで、本書には書かれていない点についても関心を引き起こしてもらえましたので、それは別の本(英語版でないと駄目かもしれませんが!)で引き続き読んでみようかなという気になりました。
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