虚無の道標(みちしるべ) の商品レビュー
デパートチェーン店で営業をこなし、上司の三神からも気に入られている有馬は三神の娘を結婚相手に紹介される。しかし、有馬は別の女性を選ぶ。そこから有馬の人生は激しく動き始める。 デパートのビジネスにおけるドロドロとした人間模様。一通の手紙、妻の告白で崩れていくそれまでの成功。かと思...
デパートチェーン店で営業をこなし、上司の三神からも気に入られている有馬は三神の娘を結婚相手に紹介される。しかし、有馬は別の女性を選ぶ。そこから有馬の人生は激しく動き始める。 デパートのビジネスにおけるドロドロとした人間模様。一通の手紙、妻の告白で崩れていくそれまでの成功。かと思えば、デパートの危機。そして復讐のためにのめり込む登山の世界。 最初の1/3とその後の2/3が山の話で、更にこれは婚約者を山で殺すのかと思ったら殺人事件はないという、色んな意味で裏切られ続ける作品である。 また、後半の山で全てを失った有馬が見つけた新たな山道を切り開いていく話が、作者が本当に描きたかったことだろう。しかし、そこまでですでに300ページと一般のちょっと長めの本1冊分なのである。つまり、そこからまた1冊分のボリュームを読む必要がある。 とにかく長いが、それなりにストーリーは盤石に設計されているため、途中で休憩を入れてもしっかりと頭に入っては来るが、山道の開発部分の行政との確執など、おそらく実話を下敷きにした部分が、逆に消化しきれていないようにも感じた。 また、この本のもう一つのテーマが、処女信仰と男性のリビドーという話であり、こと前半部においてはそれだけでダラダラとページ稼ぎをしてしまっている印象が強い。それがなかったら進まなかったのかと言われると、もうちょっとやりようはあったのではないか。 途中でリビドーの話を忘れたかと思いきや、途中でちょっと触れただけの話から、後半のネタに絡めるのは、かなり無理があった。 病気をオチに使うというのは、名作『野性の証明』の元ネタになったのであろうが、本作はあちらほど洗練もされていないし、それぞれのパーツがお互いに溶け合っていなかった印象が強かった。 デパート、山での復讐、巨大な財力との戦い、官公庁との確執など、それぞれだけで十分面白いものが、寄せ集めて薄まってしまったと感じた。
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