黒船前後・志士と経済 他十六篇 の商品レビュー
日本資本主義論争にて講座派の異端に位置する服部のエッセイ集。造船技術の発展、新選組、福沢諭吉、北海道旅行記など幅広いが、とくに『黒船前後』(1933)所収のエッセイは、「地主・ブルジョワ」に明治維新の変革主体を見出す考え方が徹底されている(この点は、奈良本辰也の解説が指摘している...
日本資本主義論争にて講座派の異端に位置する服部のエッセイ集。造船技術の発展、新選組、福沢諭吉、北海道旅行記など幅広いが、とくに『黒船前後』(1933)所収のエッセイは、「地主・ブルジョワ」に明治維新の変革主体を見出す考え方が徹底されている(この点は、奈良本辰也の解説が指摘している)。この徹底ぶりをどう受け止めるかは、読者の好みが分かれるだろう。
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1981年刊(初出1931~48年)。著者は元東洋大学教授、中央公論社初代出版部長。◆こんな書があるから古本屋漁りがやめられない。◆確かに、著者は戦前の労働農民党の書記局長だったためか、マルクスの影響を感じる。ただそれは発展段階史観というより、事実や数字重視の唯物的な姿勢のよう。また、テーマが①19世紀中期、米英間の世界の海をまたにかけた激烈な海運業競争、この日・中への影響、②1860年代、仏を中心とする朝鮮開国圧力とその頓挫(失敗は欧米の準備不足や自滅に依拠)、③安政の通商条約に先立つ日蘭自由貿易の実。 こんなおよそ他書ではお目に書かれないテーマに多く頁を割いている。特に①はマルクスが描く、英を中心とする欧州と米の対立、暫時の米国の優越傾向、その結果欧州の革命へという見立て(現実にはその見立ては外れたが)からインスパイアされたもの。しかも、雑誌畑らしく、語りが時に講談調になったり、新撰組や桜田門外の変関係者をテーマにする等、箸休めもできる美味しい書である。
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「志士と経済」の「結局、雲浜の方が、松陰よりは当年の政治家としてはるか上にいたこととなろう。」という梅田雲浜と吉田松陰の比較において、著者の歴史観が凝縮されている。声高に「日本の夜明け」を語るアジテーターに、ではなく、「草莽義徒」の組織者にこそ、深いところでの歴史の駆動力を見る視点には昨今の「竜馬ブーム」などからは見落とされがちなものが掬い取られていると思う。 抱腹絶倒の「moods cashy」にしても、あわせて市井の人々のしたたかさや、大変革期にあってもなお流れるある種のゆとりのようなものを感じさせる筆の運びにただただ脱帽。それにしても歴史を扱った文章でこれほど笑わせられたのは生まれて初めての経験だ。
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