田園の憂鬱 の商品レビュー
父親から三百円を与えられ、武蔵野に借家した詩人とその妻、二匹の犬と一匹の猫の物語。 詩人は都会の喧噪に疲れ、田園に逃れてくる。 最初のうちは気分も静まり、荒れ果てた庭に薔薇の株を見つけ、それに陽がさすように庭木を剪定したりする。 だが、長く降り続く雨の中、詩人ややがて神経をすり減...
父親から三百円を与えられ、武蔵野に借家した詩人とその妻、二匹の犬と一匹の猫の物語。 詩人は都会の喧噪に疲れ、田園に逃れてくる。 最初のうちは気分も静まり、荒れ果てた庭に薔薇の株を見つけ、それに陽がさすように庭木を剪定したりする。 だが、長く降り続く雨の中、詩人ややがて神経をすり減らし、幻覚や幻聴に悩まされる。 雨がやんだ朝、薔薇のつぼみが虫に冒されていることを知った詩人は「おお、薔薇、汝病めり!」と繰り返し叫ぶー。 詩人の文章だけあって、『田園の憂鬱』は美しい言葉で綴られている。 幻覚や幻聴を、それと知りつつ見聞きする詩人の苦悩に、一瞬共感もしたけれど、臆病なくせに自分の妻や愛犬には権威的にふるまう詩人がどうにも好きになれない。 米くらい炊けるようになれ、便所には一人で行け、薔薇は自分で取ってこい、と言いたくなる。 私はこの『田園の憂鬱』を読みながら、ウルフの『自分だけの部屋』のことを考えていた。 詩人の傍らで、藤村の『春』を読んだり、東京のことを夢想したり、猫を膝に抱いたりしている妻。 女ゆえにあさはかで、無邪気で、夫をいらだたせる存在としてのこの妻が、もしもペンを握っていたら、と。 田舎家の台所から夢を見る瞳で遠い東京を幻視していた彼女に、自分だけの収入と部屋があれば、この夫よりもいいものが書けるのではないかと思う。
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佐藤春夫?誰それ?・・・。 読んだことがないどころか、知らないという世代というか時代がついに来てしまったのかという感慨もひとしおですが、たとえ記憶の片隅にでも名前だけでも知っていてほしかったのですが、去る8月23日に新宿駅のホームで42歳の男が不意にぶつかったせいで押し出され、...
佐藤春夫?誰それ?・・・。 読んだことがないどころか、知らないという世代というか時代がついに来てしまったのかという感慨もひとしおですが、たとえ記憶の片隅にでも名前だけでも知っていてほしかったのですが、去る8月23日に新宿駅のホームで42歳の男が不意にぶつかったせいで押し出され、電車とホームに挟まれて亡くなった心理学者で社会人を対象にした通信制の星槎大学学長である佐藤方哉その人こそ、佐藤春夫と谷崎順一郎から譲られた妻の千代夫人との間に出来た長男だったのです。 もちろん方哉氏のことは存じませんでしたが、文学的教養などと言わないまでも、せめて佐藤春夫ときたら『殉情詩集』か『田園の憂鬱』の題名だけでも覚えているのが日本で小説を読んでいる者として最低の自覚というものでしょう、とかなんとか母と弟と妹に苦言を呈したら、逆に、面白いとか読む価値があるのなら誰かが推薦するとかして文学難民の私たちにもメッセージが届いているはずで、それが見当たらないということは埋没してしまっても仕方がないんじゃないみたいなことを言われて、開いた口がふさがらなくて憤慨してしまいました。 この文脈では、私は単なる異常な文学オタクということで話になりません。 でもまあ、たとえ手にとって読んだとしても、田園も憂鬱も友人の奥さんを欲しがる激しい愛も、今の私たちに皆目わかるわけがありませんが。 この感想へのコメント 1.抽斗 (2010/10/20) 私は岩波文庫の『美しき町 西班牙犬の家』で佐藤春夫を手に取って、その年のベストに挙げました。あまりに好きだったので、大学でも購入して、ポップを書いて薦めておいたのですが、とうとう誰にも手に取られないままだったようです・・・。たぶん、みんなも「佐藤春夫? 誰それ?」状態だったのでしょう。 『田園の憂鬱』はまだ読んでいませんが、薔薇さんが五つ星をつけられているのですから、読むしかないですね! 2.薔薇★魑魅魍魎 (2010/10/24) 私は古典は図書館で読み、購入するのは図書館にないか身近で再読したかったり徹底的に読む本に決めています。せっかく生まれてきたのですから、文学も美術も音楽も、今までの人類の創造してきたものを享受しない手はないと思っています。 なんちゃって、でもかつて一日3冊は読めたピチピチした読書力が、最近はダメで、めっきり衰えてきて、目も悪くなって文庫本が恐い! 3.抽斗 (2010/10/24) 1日3冊! すごいですね、遅読な私には「ふわー」ってかんじです。 時間のある大学生のうちに、できるだけ読みたいとは思っているのですが・・・自分の読書スピードと比べて、読みたい本が増えるスピードがあまりに早くて泣けてきます。。 4.抽斗 (2010/10/24) (上の続きです) そうですね、私も、できだけたくさんのことを知り尽くしたい、と思いつつ日々を過ごしています。 努力すれば色んなところに行きやすい、手に入りやすい環境にいるのだから、貪欲にならなければ多くの先人たちに申し訳ない、とすら思いますね。 そう思うのはときどきですけど(^^;)。
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佐藤春夫の代表作品。解説も壇一雄という豪華な一冊。 中盤からの「彼」の抱く幻想と眼前の現実が入り乱れる場面が面白かった。僕はこういう描写を佐藤春夫っぽいと思うけど、そうなのかな。もっと他の作品も読んでみようと思う。 でも一番好きば場面は台所で「彼」が犬二匹と猫と一緒にいてご飯を炊...
佐藤春夫の代表作品。解説も壇一雄という豪華な一冊。 中盤からの「彼」の抱く幻想と眼前の現実が入り乱れる場面が面白かった。僕はこういう描写を佐藤春夫っぽいと思うけど、そうなのかな。もっと他の作品も読んでみようと思う。 でも一番好きば場面は台所で「彼」が犬二匹と猫と一緒にいてご飯を炊いてるところ。ほのぼのした。
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浦野所有。 読み進めるうち、確実に鬱になれる本ですね。もともと40枚くらいの短編だったものに続編をつぎ足し、さらに改訂を重ねて現在の姿になったそうで、前半と後半とでは明らかに雰囲気が違います。 とりたてて説明するようなストーリーはないものの、思わず「さすが!」と声に出してしま...
浦野所有。 読み進めるうち、確実に鬱になれる本ですね。もともと40枚くらいの短編だったものに続編をつぎ足し、さらに改訂を重ねて現在の姿になったそうで、前半と後半とでは明らかに雰囲気が違います。 とりたてて説明するようなストーリーはないものの、思わず「さすが!」と声に出してしまいそうになるのが、中盤から終盤にかけて。主人公の青年の妄想癖が現実と交錯しはじめるあたりですね。ゆらゆらと動く心の細部が、絶妙に描出されているのです。正直、前半部は「時代背景も違うし、なんだか面白みのない古典だなぁ」と感じてしまいましたが、最後にこんな仕掛けがあったとは思いもしませんでした。本当に名著だと思います。
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どう表現したらいいかわかんないけど、 このラストは すごいわ… この勢い、怖いぐらい 心から湧き上がってくるような
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芸術家志望の青年が妻と共に田園に移り住み、生活する中での憂鬱が描かれている。周囲の自然をありのままに見るのではなく、そこへ自分の内面を重ねてみているのが特徴的だった。最期のシーンで「おお、薔薇、汝病めり!」ことばがこの主人公の憂鬱さを最も象徴している。
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詩人としては知らぬ者のゐない佐藤春夫の代表的な「小説」。 大學生時代に塾の講師をしてゐた時に、中學3年の夏期講習で毎年駈け足で近代文學史を教へてゐたが、その時の穴場的な設問がこの作品。 實際に高校入試で出題されてゐるから、オドロキである。 こんなことを知つてゐていつたい何になる...
詩人としては知らぬ者のゐない佐藤春夫の代表的な「小説」。 大學生時代に塾の講師をしてゐた時に、中學3年の夏期講習で毎年駈け足で近代文學史を教へてゐたが、その時の穴場的な設問がこの作品。 實際に高校入試で出題されてゐるから、オドロキである。 こんなことを知つてゐていつたい何になるのか、未だにわからない。 でも講師としては一言觸れて置かざるを得ないと云ふ、難儀な作品である。 讀んでみて、正直、がつかりした。 まづ、面白くない。 或る種の精神病者の神經過敏なタワゴトといつて良い。 第二に讀みにくい。 飜譯調の、日本語としてはこなれてゐない文章が目につく。 第三に結果としてすぐ眠くなるので、なかなかはかどらない。 まあ、睡眠藥代りには重寶するだらうが・・・ 私は實は蛾が大の苦手なのだが、唯一、此の本では蛾の不氣味さの描寫が良かつた。 2003年6月12日讀了
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