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カラクリ荘の異人たち(4) の商品レビュー

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2010/04/22

“「おい、兄さん」 手を放したら壊れる、と太一は思った。 何だって、壊れるのだ。誰かとの絆とか、関係だとか。そんなものはある日突然、簡単に狂って壊れて、失くしてしまえばもう戻らない。 確かなものなんて、何ひとつない。 どうせ失うのなら最初から、他者との関わりなんてなくていい。誰も...

“「おい、兄さん」 手を放したら壊れる、と太一は思った。 何だって、壊れるのだ。誰かとの絆とか、関係だとか。そんなものはある日突然、簡単に狂って壊れて、失くしてしまえばもう戻らない。 確かなものなんて、何ひとつない。 どうせ失うのなら最初から、他者との関わりなんてなくていい。誰も何も自分には関係ないし、どうでもいい。誰かの気持ちなんてわからなくていい。わかりたくない。 ――そう、思っていた。ずっと。 母親との絆すらあんなに呆気なく消えてしまうのなら、他の人間との関係なんてもっと脆いに違いない。だから、いつも心のどこかで信じてなんかいなかった。誰かが、自分のことを想ってくれるなどとは。 やっとわかった。 彼の中の傷は、誰の想いももう、信じられなくなっていたことだ。” 思わず、少し泣いてしまった。 良い話……なのは間違いないけれど。 ただ、もう少しシリーズ続けても良かったんじゃないかなぁと。 終わりをもう少し深くしても良かったんじゃないかなぁと。 思ってしまう。 けど、まぁ。 最後の太一の笑顔が素敵すぎた。 彼が笑えて本当良かった。 “「あ、阿川君、今……笑った?」 「え」 「笑った?笑ったよねえ。うそ、阿川君が笑った!」 采奈は歓声のような声をあげる。 「もっぺん!ね、もっぺん見たい!笑って!」 もう一度と言われましても。 でも、采奈の顔を見ているとまた、くすぐったくてたまらなくなった。 「ふ、ははは……、和泉の顔ったら」 「え、顔?ヘン?」 「ヘンじゃないけど……」 くるくる、くるくると、采奈の表情はなんてよく変わるんだろう。大きな目が動いて、唇を尖らせたり、笑ったり、泣いたり、真っ赤になったり。素直で、わかりやすくて。まるで、子供みたいだ。 ――今までだって彼女は、ずっとそうだったのに。 ずっと、彼にありったけの想いをくれていたのに。 何も気づいていなかった。気づいていないふりで、逃げていた。――怖かったから。 想いを受け取って、でもそれが壊れてしまうことが、とても怖かったから。 太一の心を覆っていた不透明な薄い殻がゆっくりと剥がれて、世界が急に鮮明になっていく。 これまで受け取ることを拒んでいた想いが、胸に沁みていった。 大丈夫。もう、怖くない。”

Posted byブクログ