西部開拓史 の商品レビュー
舞台はミズーリ州のセントルイス、ここからいよいよ未開の西部が広がっていく、という場面から始まる西部開拓の歴史。1800年前後からフロンティアが消失する1890年まで、19世紀のアメリカ西部を生きた人々の歴史を描いたもので、セントルイスからどうやって太平洋まで達したのかという探検...
舞台はミズーリ州のセントルイス、ここからいよいよ未開の西部が広がっていく、という場面から始まる西部開拓の歴史。1800年前後からフロンティアが消失する1890年まで、19世紀のアメリカ西部を生きた人々の歴史を描いたもので、セントルイスからどうやって太平洋まで達したのかという探検の物語、フロンティアでどのような生活を送ったか、ゴールドラッシュ、交通の発達、そしてその間のインディアンと白人との関係が、当時の手記などの資料も含めて解説されている。 「人びとは歴史を振り返るとき、すでに決ってしまった事実を安心して読む。事実がそう決るまでにどんな瀬戸際を通ったのか、その経緯に人びとはどんなに一喜一憂したのか、そういうことにまで思いを馳せる人はあまりいない。」(p.4)と書かれているが、最近その通りだと感じさせる出来事がちょうどあった。9.11の頃まだ生まれていない生徒たちに9.11が起こった直後のNHKの報道を見せて、そういやあの瞬間はテロだと思ってなくて、事故だと思ってたんだよな、と話をした。始めからテロだと思ってあの映像を見るのと、なんだかよく分からないと思いながら見ているのでは、同じ映像でも感じ方が全然違うのだと思う。それはともかく、著者は当時の人々の思いや、目の前に広がる光景を小説にように描写し、ある意味ノンフィクションの小説のようでもあった。 西部開拓の歴史って、それまでは「『明白なる天命』を受けて西へ西へと先住民を迫害しながら開拓していきましたー」くらいしか知らなかったけど、その過程にどんな重要なドラマがあったのか、を存分に教えてくれる貴重な本だと思った。印象的な部分をいくつか挙げると、まずはやっぱりサカガウィーアというインディアンの女性。通訳、案内人として活躍しただけでなく、ボートが転覆しそうになった時には「ひとり沈着にもボートから身をのり出し、川面に漂ってびしょ濡れになっている荷物をほとんど全部救い上げた」(p.28)という強さも魅力的な人だ。生まれたばかりの子供を背負って旅を続けたという話もすごい。あと衝撃的なのはシエラネヴァダ山脈を越えようとしてジョージ・ドナー隊の遭難の話。救助隊がやっと駆け付けた時、「小屋のなかは、この世のものではなかったという。死んでから切り刻まれて鍋のなかに入っている者もいたし、生き残って発狂しかかっている者もいた。その時の模様は、とうてい詳述できるものではない。約半数の四十名は餓死して、残りのものを生きのびさせる役割を果したのだった。」(pp.101-2)だそうだ。ひかりごけ状態。他にも、東西を結ぶ色々な(どれも厳しい)トレイルの様子、カウボーイの暮らし、ゴールドラッシュで荒れる白人、モルモン教の迫害、などなかなか教科書では学べない部分で興味深い歴史を学べた。著者が実際に旅をした時の感想、なんかが入っているのがリアルだ。アメリカは西海岸と東海岸とフロリダは行ったことあるけど真ん中は全然行ったことがない。ぜひこの本で学んだことを覚えて、アメリカの各地に行ってみたいと思った。(18/09/17)
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長い19世紀はアメリカ合衆国の拡大の歴史であった。 そして、それは、米系白人による、金・物といった富に対する強欲と貪欲と、他者に対する傲慢に彩られており、彼の「蛮」としての一面を大きくクローズアップさせるものだ。 ゴールドラッシュ然り、米国原住民に対する蛮行然り、農業と牧畜業の発展のための土地漁り、その極致たる米西戦争然りだ。 もちろん、アメリカ人の特性は「蛮」で露わになる部分だけではなく、また、この「蛮」は、19世紀という時代相とも無関係ではないだろう。 しかし、本書に見える負の面が米系白人の心性の一であり、それが露わに、あるいは極北と化す場合があるというのも確かと考えられる。 そういう意味で、良くも悪くも世界の政治・経済を動かす立場にある米系白人の心性を認識しておくために、本書は一読に如くはないと言えそうだ。 1982年刊行。著者は東京女子大学教授。
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