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ナポレオンの亡霊 の商品レビュー

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2013/05/20

リデルハートが1932-33年にケンブリッジ大学で講演した「18世紀から20世紀に至る軍事思想の動向とその欧州史に与えた影響」をもとに、増補改訂して出版された著作。ナポレオン以降、第一次世界大戦にいたるまで決戦志向が蔓延し甚大な人的損害が発生した理由を、軍事史におけるエポックメー...

リデルハートが1932-33年にケンブリッジ大学で講演した「18世紀から20世紀に至る軍事思想の動向とその欧州史に与えた影響」をもとに、増補改訂して出版された著作。ナポレオン以降、第一次世界大戦にいたるまで決戦志向が蔓延し甚大な人的損害が発生した理由を、軍事史におけるエポックメーキングな人物にスポットを当てながら解き明かした軍事思想論文である。 雌雄を決する決戦による敵野戦軍の撃破をもって敵国を屈服させるという決戦至上主義は、緩慢な密集陣形や倉庫補給方式下では決戦そのものが実はなかなか成立しづらい理論であった。18世紀のサックス元帥による戦闘単位の見直しや火力・機動力向上といった軍改革を起源とし、ブールセによる分進合撃戦法やギベールによる機動力重視の戦法は、後に分進合撃と攻勢防御-わざと弱点を晒し敵に攻めさせた上で、素早い機動力による分散→集結にて逆に敵の弱点を1点集中攻撃する-を基本として敵に決戦を強要するナポレオン・ボナパルト将軍の必勝戦術として引き継がれるが、その後、皇帝ナポレオンは大量集中方式戦術しか行わなくなり、それがナポレオン戦術という誤った形で後世に伝播されてしまった。そうした誤解を伝えたのが幾何学的戦略論のジョミニであり、『戦争論』のクラウゼヴィッツであるとしている。なかでもリデルハートのクラウゼヴィッツ批判は本書の力点であり、クラウゼヴィッツ理論がフォッシュ元帥をはじめヨーロッパにおける戦闘理論の柱となって信奉された末に、第一次世界大戦の塹壕戦を惹起させ大消耗戦となったことを厳しく指弾している。 リデルハートはいう。「戦争とは他の手段をもってする政治の継続にほかならない」とクラウゼヴィッツはいうが、戦争せずして敵を屈服させる方法は他にもあり(経済戦など)、大量集中理論と相互殲滅戦略を唱えるクラウゼヴィッツ理論では枯渇するまで国力を使い果たし戦後政治を破綻させてしまうという矛盾があり、戦争が「政治の継続」だとする割には戦後の利益を考えていないと。そして本来のナポレオン戦術である分進合撃を理解せず、さらに機関銃などの兵器の発展を考慮することなく、いたづらに最初から軍を大量集中配置し決戦に拘るクラウゼヴィッツ理論では、第一次世界大戦の西部戦線のように膠着して長期消耗戦になる現実があると批判するのである。 リデルハートが本書を締めくくるにあたり戦争史研究から導き出した結論は、生き残る法則は「融通適応性」であり、まず「絶対戦争」論に拘ることをせず、敵を混乱させ弱点を集中して衝く集中原則を重視すること、そして代替計画は常に持てということである。さらに、勝利のためには歴史の勉強は絶対に必要で、歴史の教訓から自由で批判的精神を培い、技術進歩には常に目を向けるような、「思考の柔軟性」を養うことが大切だとしている。 訳者あとがきにもあるように、比喩が難しく西洋軍事史もある程度理解していないと、さらりと書かれた一文にもわかりづらい個所が散見されるが、リデルハートの軍事思想の序論的論文として彼の思考の概略を知るにはお手軽な一書かもしれない。

Posted byブクログ

2012/04/29

西洋の軍事思想の変遷について書かれた本。この本が無ければ知らずに終わった軍事思想家も多かったかもしれない。

Posted byブクログ