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エミリー・レインとリシダス(1) の商品レビュー

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2010/03/29

大変良く出来たファンタジーです。amazonにはネタバレを控えてレビューしましたが、著者はロンドンの王室、歴史、史実に加えて聖書・神話・寓話を絶妙にミックスして、現代のロンドンにあたかも実在するかのような世界を描ききっています。 個人的には設定不足で世界観やキャラクターの行動に...

大変良く出来たファンタジーです。amazonにはネタバレを控えてレビューしましたが、著者はロンドンの王室、歴史、史実に加えて聖書・神話・寓話を絶妙にミックスして、現代のロンドンにあたかも実在するかのような世界を描ききっています。 個人的には設定不足で世界観やキャラクターの行動に疑問の残る昨今のコンピュータRPGやファンタジー作品に余り良い印象を持っていませんが、設定や時代背景が確立された中世や暗黒時代の剣と魔法の世界でないにも関わらず、このような非常にシックリ来る仕上がりなのは著者の造詣が深さに起因するものだと思います。その為、子供でも楽しめないかと問われればそうではありませんが、多くの文学やファンタジー、聖書、神話、歴史に親しんだ大人の方がより楽しめるのではないかと思います。 そして謎が徐々に明らかになり、登場人物、エミリーの出生の秘密が判る頃には、全ての線が一本にまとまったようにスルッと合点がいくのです。無論、その要素がタダの寄せ集めと言われればそれまでですし、そう感じる読者も多いとは思いますが、面白いからいいじゃない!と私は此度は両手を上げさせて頂きます。この物語の世界観に大きな綻びやツッコミどころは多くはありませんから。 さてエミリーは自分の能力に気がついたばかりで大活躍とまでは行きませんが、その分、カッコイイ大人たちがサポートしてくれます。この物語の語り部であるヴィトゲンシュタインとミクルホワイトは、エルフの血を引くに値する冷静さと優雅さを兼ね備え、彼らの性格も良く表されています。エミリーとアウロラが橋から落ちたシーンでは、映画的に盛り上げたいならここで「エミリー!!!」などと叫んで、後を追って飛び降りるべきです(笑)。しかし彼らは叫ぶ事も、そして感情的になって追いかけるような事もしません。今、自分たちが優先的に何をすべきかを瞬時に判断し、合理的な行動をとります。 これがいい。 直ぐに感情的になって「絶対に許さない!」などと大声を出したり、感情に突っ走るようなアメリカナイズされた演出は一切ありません。感情的に反撃を試みて成功するのはドラマやハリウッド映画だけで十分です。こうしたやりとりは一見淡々として冷血に見えますが、本書ではその行動がシンプルながらも丁寧に描写され、読者にリアリティを与えます。読者はエルフの慎重で常に周囲を見渡しているような沈着さを目の当たりにし、常に命の危険が伴なう世界に足を踏み入れた事を痛感させられるのです。 ドンビー牧師達に黒く汚い存在と描く事は、現実において身勝手で嘘をつく大人や、子供に暴力を振るう大人、保身しか考えない大人を象徴しているようにも思います。そして彼らとは対照的に崇高なエルフの血を引くカッコイイオトナが描かれると、オトナはかくあるべきだ!と諭されているようでもあります。 最後に、本書の大好きな一文を引用させて頂きます。 『人間というのは、子供のように考え、子供のように理屈抜きの願いを持ち、この世には正義があると信じ、最後には悪いことは悪人の身に降りかかり、良いことは良い人に訪れると信じるかぎり、いつまでも子供なのだ。』 ―――第1部・第11章より 値段は少々お高目ですが、ボリュームと読み応えは十分でお釣りがきます。イッキに読んでしまうのは勿体ないので、たまにヴィトゲンシュタインの台詞を思い出してページを戻しながら、ジックリと読んでみてはいかがでしょうか。個人的には、最後にはエミリーの目が治れば良いなと思っているんですが、さてどうなるか。

Posted byブクログ