昭和 の商品レビュー
「昭和」の終わりを聞いたのは、東京に出て一人暮らしを始めた1年目のこと。自分にとって昭和時代はずっと生家で過ごした時代であり、一方新しい平成は多かれ少なかれ一人での生活を始めた時代に当たる。自分自身にとっても「昭和」は一時代の区切りであった。 ジョン・ダワーは名著『敗北を抱きし...
「昭和」の終わりを聞いたのは、東京に出て一人暮らしを始めた1年目のこと。自分にとって昭和時代はずっと生家で過ごした時代であり、一方新しい平成は多かれ少なかれ一人での生活を始めた時代に当たる。自分自身にとっても「昭和」は一時代の区切りであった。 ジョン・ダワーは名著『敗北を抱きしめて』で有名な日本歴史研究家である。本書はそのダワーが「昭和」というくくりで、いくつかの異なるテーマについて書かれた論文を集めたものとなっている。2段組みで文字びっしりで300ページあり本はずっしりと重いが、昭和の終わりを10代として過ごした世代の人間としてはその重さも含めて読む価値を見出すことができる。 本書の視点は「昭和」をひとつの一連性のある時代と見て、戦前と戦後の断絶よりも、そこで見逃されている「連続性」を見るものである。昭和の歴史を、暗い軍国時代が終わり、新しい時代が来て戦後の復興を果たし、そして奇跡の成長を実現したといった単純で分りやすいストーリーとして見ない。その逆に、戦後の組織には、戦時下からそのまま多くの組織や人が温存されたことを示している。特に高度経済成長を支えたとされる大企業における、終身雇用、年功序列賃金、企業別組合、は日本の伝統でもなく、戦後の変革により確立されたものでもなく、戦時中に戦争によって確立されたものであることを論述するくだりは説得力がある。 著者は、サンフランシスコ講和条約や日米安保条約を結んだ時の首相吉田茂、日米間の風刺漫画、戦時下の日本の原爆開発、など色々なテーマを挙げて、昭和の時代を通した日米間の誤解と緊張を持った関係を著者ならではの視点で描き出している。 最後に補論として、明治天皇逝去、第二次世界大戦の降伏、と並べて二十世紀の日本の歴史の中での「容易ならざる重要性を持つ象徴的なできごと」とした昭和天皇逝去について二編の論文が置かれている。大喪の礼の特異性と同時にあの時代のことを思い出すいい機会となった。
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