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「脱ダム」のゆくえ の商品レビュー

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2020/09/19

2020/7の球磨川の洪水以来、「川辺川ダム」にも再び脚光があたろうとしている。 東の八ッ場ダムで去年の奇跡的な試験湛水がヒロイックに語られている中、西の川辺川に目が向くのもある意味で仕方ないこと。 そんな中だからこそ、自分なりには以前のことを勉強しておかないと(そうしないと意見...

2020/7の球磨川の洪水以来、「川辺川ダム」にも再び脚光があたろうとしている。 東の八ッ場ダムで去年の奇跡的な試験湛水がヒロイックに語られている中、西の川辺川に目が向くのもある意味で仕方ないこと。 そんな中だからこそ、自分なりには以前のことを勉強しておかないと(そうしないと意見の持ち方を見誤ることにもなりかねないので)。 ということで、読んでみた。 ◆本書のスタンス(ひいては熊本日日新聞のスタンス)が、賛否のどちらかに偏ることなく、冷静にかついろんな人に取材をピュアに重ねることに徹していることに好感をもった。 その端的な例として、流域自治体(首長)の考えを地図にマッピングした図(p43)は分かりやすいし、こういう整理は必要不可欠だよな…。 ◆人吉市長はじめ、首長たちがやや感情的に意見を持っている(少なくともそういうふうに描かれている)のに対し、蒲島知事は勤めて冷静かつ具体的な判断をしているのも印象的。 特に、「ダムそのものが悪で、それには絶対反対という人もいるが、それには与しない」という意見表明はきわめてリーズナブル。 ◆知事は「洪水との共生」と語った。しかし、球磨村の渡地区(ちょうど今回の水害で大被害となった地区である。。)にある、仏壇を屋根裏に引っ張りあげる仕組みのあるお宅にお住まいの方が、「(洪水は)もうこりごり」と語っているのには考えさせられる(p55)。 そう、こういう地域事情をみつめることでしか、具体的でしっかりとした判断というのはなされ得ないのだと思う。これぞ、事業者が現地に住む価値だとも思えてならない。 ◆以前の寺本知事が、「事業認定の決裁が長い間、後悔の種となった」と言っていたことも印象に残る。 話し合いに極力時間をかけることでしか信頼関係はつくれないし、「情にかなう」事業はなし得ない、、ということでもあると思った。 ◆ダムへの賛否により水没集落(五木村)の人々が感情的に二分されたということにも胸が痛む。 また、京都府の山田知事が「市町は安全性を向上させる国の事業に同調しがちだが、府県は裏負担があるから市町とは異なる目線になり得る(だから意見聴取の対象になっているのである)」という見方も勉強になった(p146)。 今後、「流域治水」をしていく中で、皆でまとまれるのだろうか。。そしてそこでの基本高水や目標設定のあり方や、流域治水メニューの議論との兼ね合いたるや、いかに。。(つまり、どこまでが議論対象なのか。。)

Posted byブクログ

2015/03/12

熊本県の川辺川ダム問題をめぐる動きについて、熊本日日新聞の連載をまとめた本。単純にダムに賛成・反対ではなく、地域の声に耳を傾けるという姿勢で書かれたとされており、確かにバランスのとれた良質なルポとなっている。ただ、やはりこれまでのダム建設をめぐる行政の動きについては、かなり疑問を...

熊本県の川辺川ダム問題をめぐる動きについて、熊本日日新聞の連載をまとめた本。単純にダムに賛成・反対ではなく、地域の声に耳を傾けるという姿勢で書かれたとされており、確かにバランスのとれた良質なルポとなっている。ただ、やはりこれまでのダム建設をめぐる行政の動きについては、かなり疑問を投げかける論調ではある。 「公共事業は法にかない、理にかない、情にかなわなければならない」という、日本のダム反対運動の草分けとなった松原・下筌ダムの「蜂の巣闘争」を指揮した室原知幸氏の言葉を引用し、これまでの行政はそれを実現できていなかったという前提のもと、「法」「理」「情」にかなう公共事業のプロセスについて提言も行っている。 本書を読んで、五木村をはじめ、大型公共事業がいかに地域住民を翻弄するのかということが印象に残った。住民に納得感をもってもらうためにも、本書で強調されていた公共事業への「住民参加」は進めていかなければならないと感じた。 地方自治体の立ち位置、国と地方のあるべき姿とは何かについての指摘も印象深かった。やはり、都道府県は国の出先機関ではなく、住民自治を体現する拠点であるべきであろう。 しかし、ダム建設の是非というのは、本当に難しい問題だと思った。ダムの治水についての効果やダムに代わる治水対策の有効性など、素人には判断しがたい論点が多い。ダム建設、脱ダム、どちらに転ぶにしても、行政が判断材料を多く示して、関係住民の参画のうえで、政治判断するというプロセスが必要だと思った。

Posted byブクログ