権力への階段 大学院生物語外伝 の商品レビュー
「大学院生物語」と同様の、生物学系研究機関に勤務する人々の実態に基づくフィクション小説。 オビの宣伝文句が「俗物VS堅物」なので、一見、権力や名誉への欲だけあって研究者としての能力は全くない研究所理事長と、結婚もせず黙々と研究に打ち込み、院生への指導もきっちり行う研究者との対決...
「大学院生物語」と同様の、生物学系研究機関に勤務する人々の実態に基づくフィクション小説。 オビの宣伝文句が「俗物VS堅物」なので、一見、権力や名誉への欲だけあって研究者としての能力は全くない研究所理事長と、結婚もせず黙々と研究に打ち込み、院生への指導もきっちり行う研究者との対決という図式に読めてしまう。 しかしこの本で行われていることを客観的に要約すると、理事長が研究所の研究者達に嫌がらせを行うが、主役である研究者達は、自らの研究と学生を守るという研究者としての至極当然な行為を貫いて、その嫌がらせを自然と跳ねのけているだけである。 対決ではなく、勝手にまいあがって主人公気取りの理事長が、優秀な研究者にスルーされ、最後は自滅してしまうだけである。 しかし、読んでいる時の印象は、まさに勧善懲悪ものである。 悪の理事長が繰り出す、自らをトップとする愚かな研究体制の強制、関わっていない論文への共著ごり押し、部下の成果を自らの成果のように印象付ける成果の横どり、等々の攻撃を、主役である研究者達は、自らの研究へのプライド、科学者として基本的な倫理とルール、名誉へのこだわりのなさ、といった武器をもって徹底的にやり返す。 研究者たちは理事長を倒すことに興味はないので、最後は科学会の基本的ルールという水戸黄門が理事長にとどめをさすが、基本的には勧善懲悪ものの構図そのものと言っていいだろう。 理事長の上にさらに悪のお代官様がいて、そいつが研究者たちに嫌がらせをしてきたら完璧だったかもしれない。 生物学系の話は全くわからないが、大学院生物語と同様、研究に打ち込む理系の研究者達の姿は美しい。 多分俺なんかはこの本だとねつ造させられる吉江みたいな立場になるのだろうが、しかしその吉江も別にバッドエンドではなく、海外で研究者を続けるという前向きな形で終わっている。この点も読んでいて嬉しかった。 悪だけが倒され、善が報われる。すがすがしい。
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