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2010/05/11

 アウシュヴィッツ=ビルケナウの収容所とそこからの死の行進、そしてブーヘンヴァルトでの解放を迎えるまでを生き抜く著者自身の経験を描いた証言文学作品。これらを経験したときにヴィーゼルが15歳ということもあってか、プリーモ・レーヴィの『アウシュヴィッツは終わらない』やヴィクトール・E...

 アウシュヴィッツ=ビルケナウの収容所とそこからの死の行進、そしてブーヘンヴァルトでの解放を迎えるまでを生き抜く著者自身の経験を描いた証言文学作品。これらを経験したときにヴィーゼルが15歳ということもあってか、プリーモ・レーヴィの『アウシュヴィッツは終わらない』やヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』のように、収容所そのものやそこに囚われている人々、さらにナチスの親衛隊員についての考察には乏しいものの、極限状況を生き抜こうとする自己自身の心理を抉り出す筆致は鋭く、読んでいて胸を締めつけられる。みずからの贖罪の意味もあると思われるが、生き残ることの過酷さにこれほど迫った作品は稀であろう。アウシュヴィッツ=ビルケナウに到着した最初の夜、ヴィーゼルは幼い子どもたちが生きたまま焼却炉に投げ込まれるのを目の当たりにする。それ以来、ラビを目指してユダヤ教の教えを真摯に学ぼうと志していた彼の許から神が離れ去って、神の不在の夜が訪れたかのようだ。極限状況を前にして、パウル・ツェランの「テネブレ」を思われるかのように神を睨み返そうとする心情が綴られ、最後には生き残るために弱り果てた父を見捨てるさまが描かれる。ブーヘンヴァルトで父の呼びかけに応えなかったことが、この『夜』をヴィーゼルに書かせたのかもしれない。

Posted byブクログ