古典を読む 枕草子 の商品レビュー
『古典を読む 枕草子』( 岩波書店)1984刊を、岩波書店同時代ライブラリーの一冊として再刊したもの。「先生と呼ばれるけれど別に専門家ではない男、ただ、前田家本『枕草子』を持っている。鼓(つづみ)さんと呼ばれ、朗読の訳を負わされる女。雪(すすぎ)君と呼ばれる男、鼓より少し年上か。...
『古典を読む 枕草子』( 岩波書店)1984刊を、岩波書店同時代ライブラリーの一冊として再刊したもの。「先生と呼ばれるけれど別に専門家ではない男、ただ、前田家本『枕草子』を持っている。鼓(つづみ)さんと呼ばれ、朗読の訳を負わされる女。雪(すすぎ)君と呼ばれる男、鼓より少し年上か。」という冒頭文があり、この気心の知れた三人の読書会という架空の設定で枕草子談義が進められる。三人の自由討議の形式は『枕草子』を多角的に捉えるという狙いがあって書かれてるので、この鼎談形式の文章と向き合うには読み手というより聴き手という意識が必要。ラジオ番組の『枕草子』談義を聴くって感じだろうか。 内容的には、「前田家本『枕草子』を持っている」というのがキーポイント。今の『枕草子』研究は「三巻本」という伝本が主流で、「前田家本」は異本という扱いになっている。そこで著者は「どっちが本物、どっちは贋物ということじゃないけどね」というスタンスで『枕草子』の解釈を進めるのだが、これが読んでいて興味が増してくるのだ。面白い解釈だなぁと思えるところや、エエッ何でと突っ込みを入れたくなるところがあり、「前田家本」の内容に真実味を感じる部分もありで、「専門家ではない男」と前置きされている著者の話に引き込まれてしまう。 著者の寺田透先生はフランス文学が専門だが、日本の古典や近代文学にも通じておられるし、さらには『正法眼蔵』に関する本も著されている。西洋文学の専門家で日本や東洋の古典に関する本を書かれている方には、どの作品も斬新で興味深い多い。フランス文学者の桑原武夫先生やドイツ文学者の中野孝次先生などもそうだし、この作品も然りだと思う。海外文学を経由してからだと、日本古典文学を専門的に研究しておられる方々とは違った視点が持てるのかもしれない。 同時代ライブラリーは絶版になっているのだが、そこに収められていた作品のいくつかは岩波現代文庫として再刊されている。できれば、『古典を読む 枕草子』も岩波現代文庫として出していただきたいと願っている。
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