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ウォール・ストリートと極東 の商品レビュー

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2011/03/21

戦前日本の政党政治は、ワシントン体制の枠組と不可分であった。本書は、その体制の「経済的部分」を担った「国際借款団」-特に、その中心を担ったウォール・ストリート銀行団を分析したものである。 WWⅠ後、日米英仏の四カ国で結成された借款団は、本来の目的であった中国の経済開発を果たすこ...

戦前日本の政党政治は、ワシントン体制の枠組と不可分であった。本書は、その体制の「経済的部分」を担った「国際借款団」-特に、その中心を担ったウォール・ストリート銀行団を分析したものである。 WWⅠ後、日米英仏の四カ国で結成された借款団は、本来の目的であった中国の経済開発を果たすことはできなかった(中国への借款不成立)。しかし、各国の協調による相互抑制により、特定国の中国への内政干渉の拡大阻止(=門戸開放政策の促進)を果たしたという点で、国際協調時代の一翼を担う存在であった。特に、日米関係は、井上準之助とラモント(米国銀行団代表)の個人的信頼関係を通じて、経済提携論による関係安定化という結果をもたらした。 しかし、日本は満洲事変+上海事変によりワシントン体制から脱退、同時に井上・団琢磨の暗殺によって日米経済提携論も終焉を迎える。また、各国でも、大恐慌後は、外国への借款は民間の銀行ではなく国家によって行われるようになり(「国家資本主義」の台頭)、ワシントン体制の「経済的部分」を担った国際借款団はその歴史的役割を終えることになる。

Posted byブクログ

2011/02/12

東大名誉教授で日本政党政治史の大家の三谷太一郎先生が、「ウォール・ストリートと極東;政治における国際金融資本」(東京大学出版会)というとびっきり面白い学術書を出版された。 ギリシア危機や、ユーロの動揺というものが、近代日本の起源への記憶を生々しく想起させてくれる昨今の状況から見...

東大名誉教授で日本政党政治史の大家の三谷太一郎先生が、「ウォール・ストリートと極東;政治における国際金融資本」(東京大学出版会)というとびっきり面白い学術書を出版された。 ギリシア危機や、ユーロの動揺というものが、近代日本の起源への記憶を生々しく想起させてくれる昨今の状況から見ても、凄まじくリアリティのある書物となっている。 たとえば、日露戦争以前の、外資依存を回避しようとする日本の方向性に、明治天皇の意志が大きく、それに大きな影響を与えたのが、来日したユリシーズ・グラント元米国大統領の発言だったという件などは、現在の南欧、東欧の状況を見るにつけ、強い現代性を有している。お金を借りることが、植民地化の一里塚だった時代である。外債を返済するための、賃下げに街路でストライキが起こる状況を見るにつけ、当時と今で、本質の何が変わったのだろうかと思わされる。 1879年に来日した米前大統領のユリシーズ・グラントは、南北戦争における海外の影響の危険性も踏まえて、明治天皇に対して次のような提言をした。そして、その言葉は、深く、天皇の心の中に残り、以後の松方緊縮財政などに繋がり、日露戦争前の日本の方向性を決めていった。 (カタカナ表記は読みにくいのでひらかなにしたり、国名の漢字表記をカタカナ表記に治しているので悪しからず。) 「予が抱く所の今一つの意見は外債の一事なり。凡そ一国に於て避くべきものは外債に過ぐるものなし・・・試しにエジプト、スペイン或いはトルコを観よ。其憫然たる状態思うべきなり。彼れ一国の鴻益となるべきものはいずれも抵当となし、其極今日に至ては其自国の所有と称すべきものは全く地を払いたり・・・将来日本は決して再び外債を起すべからず。(略)陛下固より知了し給わん。或る国は弱国に金を貸すことを甚だ好めり。之に由って其威権を張り弱国を籠絡せり。彼金を貸すの目的は政権を掌握するに在て、常に金を貸すの好機会を窺へり。凡そ東洋に於て外国の支配或い干渉を漸く其半を免れるたるものは、独り日本と清との両国のみ。故に此両国が干戈を交ゆるは彼等の喜ぶ所にして此機会に乗じ専横の約束を立て金を貸し、恣に内国の政治に干渉せんと欲するなり。」 グラントは、ここで欧州帝国主義を厳しく論難しているわけだ。幕末からこの外資利用に関しては、常に議論が分かれるものだった。福沢諭吉や勝海舟なども交えて、この外資利用をめぐる議論が行われる過程の記述は、まさにドラマチックだ。 NHKの龍馬伝も佳境に入ってきたが、現代と過去が生々しく交差する国際金融の世界からも目が離せない。

Posted byブクログ