古典を読む 古事記 の商品レビュー
本書の冒頭でとりあげられるのは、日本人は箸を使い捨てにするというエピソードです。ここから著者は、スサノヲが出雲の国に降り立ったときに川を流れる箸を見て、上流にひとが暮らしていると知ったことや、オオモノヌシが蛇に姿を変えたことに驚いたヤマトトトビモモソヒメが箸で陰を突いたことに話を...
本書の冒頭でとりあげられるのは、日本人は箸を使い捨てにするというエピソードです。ここから著者は、スサノヲが出雲の国に降り立ったときに川を流れる箸を見て、上流にひとが暮らしていると知ったことや、オオモノヌシが蛇に姿を変えたことに驚いたヤマトトトビモモソヒメが箸で陰を突いたことに話をひろげていき、神話から現代にいたるまで人びとの精神の奥底に息づいてきたアルカイックな思考に沈潜していきます。 こうした著者の議論のスタイルは、柳田国男と折口信夫の対談に触れているところで明瞭に示されています。この対談では、民俗学によって「記紀」以前のアルカイックな思考をさぐろうとする企図が、民俗学の二大巨頭によって語られています。著者はこうした民俗学的な手法にもとづいて古代の精神をさぐろうとする試みにならいつつ、現代にまでのこる「大歳の祖霊迎え」の習俗に、大化の改新の前年に起こった「青虫教」のエピソードをかさねて、古代の思考のありかたが現代にまでつながっていることを示唆しています。 こうした観点から、たとえばイザナミがカグツチを生んだエピソードから、古代の火に対する信仰のありかたに文学的な想像力を飛翔させ、あるいはアマテラスとスサノヲのウケヒによって誕生した三女神の信仰が、玄界灘の孤島である沖ノ島に生きつづけてきたことなどの事例が紹介されていきます。 民俗学や人類学の手法によって『古事記』を解釈する試みとして、興味深く読みました。
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