メディア・エクスタシー 情報生態系と美学 の商品レビュー
日本のメディア業界の源流にいるグルーともいえる、武邑先生の92年の著書を読んだ。あの時点でみえていた情報体系・感覚基盤を美学の視覚から捉えた壮大な一冊。語り口がやや衒学的なきらいがあるものの、身体知に基づいた筆致は蠱惑的ですらある。 バロウズの主張した情報の生理学的解読といった...
日本のメディア業界の源流にいるグルーともいえる、武邑先生の92年の著書を読んだ。あの時点でみえていた情報体系・感覚基盤を美学の視覚から捉えた壮大な一冊。語り口がやや衒学的なきらいがあるものの、身体知に基づいた筆致は蠱惑的ですらある。 バロウズの主張した情報の生理学的解読といった視点が、ニューエイジという文化流行の浮上を伴って、ハウス・サウンドの情報代謝、そしてクラブ文化における電子生理学への接近は、ますます果敢な状況を生み出していくのである。p63 つまり、知覚を多彩にシミュレートする方向性に向かっている現在のメディア・アートやインターアクティブ・シミュレーションの方向は、外延化したテクノロジーが、再度人間の生体域に帰還し、人間の内部器官としての知覚領域に再接合してきた端緒であるともいえる。p69 対象の抽象化と抽象への対象化は、造形の形成力において転回する能動的な力学である。p83 90年代における重要なアプローチとして位置づけられているこれらのメディア・テクノロジーは、シミュレーションの対象となる基本要素として、「物質」、「空間」、「生体 - 知覚」という三つの要素に大別されるアプローチを持つ。世界や都市のリプリゼンテーションはプリ・モデルとしての空間・物質系のシミュレーションであったと言えるが、現在のシミュレーション産業社会構造に浸透している電子神経網や、電子的虚像による人口現実の時空は、現実性という一方の社会器官と生体という知覚・感覚器官とのインタラクティブな情報処理を機能化することで、産業プロダクトにおける虚空の現実が、現実そのものを大きく改変してしまう構造の生成が喚起されている。p249 90年代におけるメディアの全質変化は、いわば20世紀のメディア拡張を見届ける最終段階のフェイズである。本書は、80年代後半からの最も先鋭的なメディア・テクノロジーを前景とするメディア美学やメディア文化論へのアプローチである。それは、生体におけるエクスタシーと共生化するメディア技術の際限のない速度を捉え、この数年の間に発表した文章を大胆に構成し直した結果でもある。メディアの語源であるメディウム(霊媒)を、リアル・ワールドとヴァーチャル・ワールドとを結ぶ縦軸として、横軸には情報と情感のバイオスフィアを横断するヴィークル(Vehicle)というコンセプトが設定された本書は、筆者の仮想メモリーに蓄積されたデータ出力でもある。p284
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