東京骨灰紀行 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
読み出しの最初は「江戸っ子気取りのジジイが東京の墓や史跡めぐって、お江戸自慢するエッセイか」と思って、なんだか乗れずに読み流していたんだけど…。 全くの認識違い、江戸から東京を襲った、天災人災の数々を墓地と史跡から振り返るフィールドワークの記録なのである。語り口が軽妙洒脱で学術の臭いが薄いから、ついついエッセイのように読んでしまうが、油断していると鋭い切り口に「え?」と読み直すことになる。 「諸君は興業をなしたまえ、私は忠義をするさ」の吉田松陰が戦中、滅私奉公の手本となってしまう様の記述、後藤新平の帝都改造計画を昭和天皇が振り返るあたりの記述など、鋭いだけでない辛辣さが所々にひょいと顔を出す。その都度ページ繰る手が止まり、ちょっとした思案タイムが生じる。それが良い。 江戸明暦の大火、安政の地震、上野の彰義隊(江戸城無血開城は愚かな人間による数少ないマシな行為なのかも)東京になってからの、関東大震災に東京大空襲。 実はこれら、単発の事故事件ではなく、連綿とつながる歴史なのだということ。そして天災で無力に死んでいく数万の命、再発防止に取り組んでもさらなる悲劇が見舞い、さらに多くの散っていく無力な人間の命。 何よりもむなしさを覚えるのが、それまでの天災事変を合わせたよりはるかに多くの命を奪っていったのが戦争(東京大空襲)であったこと。当時の日本人はなぜあんな道を選んでしまったのか?亡くなった一つ一つの命の口惜しさを感じるとともに、政治家指導者と言われる連中の怪しさアホさに、情けなくなる。 そのアホさは過去のものではなく。令和の世も連綿と続いている。 その一例が、来年のオリンピックである。マラソン競歩が札幌で開催されるのは、気候のせいだけではない。スポーツのすがすがしさとはほど遠い、政治と利権がほの暗いジメジメとした一面なのだから。作者はあのオリンピックをどう見てるのだろうか?
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こういう歴史もありか。地層のように過去の人たちが地表に顔を出しているのですね。読んだ後に新宿に行くことがあったので、成覚寺(子供合埋碑)をお参りしてきました。
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[そこは、黄泉の大都会]高層ビルが林立し、人々が忙しく行き交う東京。そんな現代的な都市の薄皮を、ぺらっとめくってみれば現れる数多の骨灰を巡りに、霊園や牢屋敷跡をぶらぶらと尋ねる一風変わった東京案内です。著者は、詩作などの多彩な文筆活動で知られる小沢信男。 今まで見たことがない...
[そこは、黄泉の大都会]高層ビルが林立し、人々が忙しく行き交う東京。そんな現代的な都市の薄皮を、ぺらっとめくってみれば現れる数多の骨灰を巡りに、霊園や牢屋敷跡をぶらぶらと尋ねる一風変わった東京案内です。著者は、詩作などの多彩な文筆活動で知られる小沢信男。 今まで見たことがない東京の顔を知ることができる一冊。無機質に、それでいて活気溢れて見える街が、こんなにも死(本作の中ではあくまで柔らかいものとして捉えられているのですが)と隣り合わせになっているとは思いもしませんでした。それでいて本書から漂ってくるからっとした雰囲気はいったいなんだろう......。 〜都会という不自然な形態は、いかに不自然な死者たちを絶えず生じさせることか。その無量の屍たちのうえにこそ、おかげさまで、多様な町暮らしの喜怒哀歓が、営々とくりひろげてこられたのだなぁ。そのこしかたを忘れはてた集団に、崩壊以外の、どんな未来がありえようか。〜 また東京に帰れる日が楽しみだなぁ☆5つ
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ヨーロッパにしてもアジアにしても、きっどどこでもそうだろう。都市は大抵、多くの災害や人災の死屍累々の上に成り立っている。そのことを、ともすれば、今現在生きて繁栄を享受している者たちは忘れてしまいがちになる。考えないでいたがる。 2009年初版ということで、東日本大震災以前に書か...
ヨーロッパにしてもアジアにしても、きっどどこでもそうだろう。都市は大抵、多くの災害や人災の死屍累々の上に成り立っている。そのことを、ともすれば、今現在生きて繁栄を享受している者たちは忘れてしまいがちになる。考えないでいたがる。 2009年初版ということで、東日本大震災以前に書かれた本であるが、天災人災への言及は、まるでその後に書かれたかのようである。震災後の政府の対応などを預言しているかのようでもある。
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アスファルトとビルに覆われた東京。空には高速道路、地下には 縦横無尽に張り巡らされた地下鉄網。 そんな東京も、江戸の昔から辿れば災害と戦争の街だった。そんな 東京の死者を祀る場所を巡る本である。 日光街道から江戸への玄関口・千住、東海道からの玄関口・鈴が森。 一定の年齢の人で...
アスファルトとビルに覆われた東京。空には高速道路、地下には 縦横無尽に張り巡らされた地下鉄網。 そんな東京も、江戸の昔から辿れば災害と戦争の街だった。そんな 東京の死者を祀る場所を巡る本である。 日光街道から江戸への玄関口・千住、東海道からの玄関口・鈴が森。 一定の年齢の人であれば、そこが刑場であったことを記憶しているだろう。 今では恩賜公園の上野の山では戦場となり、江戸の大家と大地震で、 東京は死屍累々の街だった。 東京メトロ日比谷線・三ノ輪駅の近くには吉原の遊女たちの供養塔、 両国回向院には鼠小僧の墓。東京の文学散歩は有名だが、有名人の 墓巡り散歩を好む人たちも多くいる。 本書の文体は少々苦手だが、死者を辿る東京散歩もまたいいのではないか。 尚、南千住駅再開発の時、地下から人骨がざくざく出て来たなんて話は 東京の地下に多くの死者が今でも眠っているのだなと思わせる。 うぅ…散歩へ行きたい。
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ここのところ高齢者の本を読む機会が多い。 筆者は花田清輝、長谷川四郎と交流があったとのこと。 良い本だった。三ノ輪のあたりに行ったことを思い出す。
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全く存在を知らなかった本だが、朝日新聞読書欄の「ゼロ年代の50冊」に入っていたので読んでみた。「江戸」にも「東京」にもさしたる思い入れのないこととて、ぼんやり読み始めたのだが、じわじわ引き込まれていって、最後までたどり着いた時にはずっしりとした感慨が胸に迫ってきた。 タイトルの...
全く存在を知らなかった本だが、朝日新聞読書欄の「ゼロ年代の50冊」に入っていたので読んでみた。「江戸」にも「東京」にもさしたる思い入れのないこととて、ぼんやり読み始めたのだが、じわじわ引き込まれていって、最後までたどり着いた時にはずっしりとした感慨が胸に迫ってきた。 タイトルの通り筆者はひたすら東京に残る「骨灰」を尋ね歩く。巨大都市東京が何と多くの屍の上に築かれていることか。それは東京に限ったことではないけれど、その規模の大きさ、変貌のすさまじさが圧倒的なのである。 綿々と続く土地の記憶をすっぱり断ち切り忘れ去っていくことを良しとするような時代に私たちは生きている。過去はノスタルジーの対象としてのみ振り返られる。傲慢、としか言いようがない。 作者の語り口は実に独特だ。道連れの人に語りかけるような口調で、東京の街角が目の前に現れてくる。おじいさんに案内してもらって歩いているような感じか。でもこのおじいさん、しばしば、ずーんと胸にこたえることを言うのである。心に残る1冊になった。
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自分の読みたい本リストに入っていたこちら、「ゼロ年代の50冊」にもリストアップされていたので読んでみた。 首都東京。ビルが乱立するその下には、この繁栄に至るまでに命を落とした、累々たる死体が眠っている。 東京で生まれ育った筆者が、両国・日本橋・千住・築地・谷中・多磨・新宿を歩き...
自分の読みたい本リストに入っていたこちら、「ゼロ年代の50冊」にもリストアップされていたので読んでみた。 首都東京。ビルが乱立するその下には、この繁栄に至るまでに命を落とした、累々たる死体が眠っている。 東京で生まれ育った筆者が、両国・日本橋・千住・築地・谷中・多磨・新宿を歩きつつ、そこに眠る多くの霊に思いを馳せ、来し方を振り返る紀行文。 数々の文献と筆者自身の思い出を道連れに、墓地や寺、碑を巡る。挿入される飄逸な語り口のエピソードは在りし日を彷彿とさせ、江戸の香りも漂う。随所に出てくる「切絵図」とは、江戸時代の古地図。現代の風景と重ねると歴史が透けて見えてくる。 個人的には、千住と吉原がこんなにも近かったのか、というのにちょっと驚いた。吉原、落語を聞いているとしょっちゅう出てくるけれど、そうか、この辺なのね。それと、やはりこの近所に、刑場であった小塚原がある。「こづかはら」とばかり思っていたが、「こつかはら」と読ませたのだそうで、近くに「コツ通り」というのもある。「骨」の意味も掛けているのだろう、という辺りがおもしろかった。「あきはばら」は昔「あきばはら」だったというのは聞いたことがあるけれど、濁点て昔は表記しなかったらしいから、付いたり取れたり場所が変わったりいろいろだったのかな。 エピソードをいくつか拾うと: ・玉川上水。流れの速い上流では、投身自殺が多く、下流では産湯に使われたという。 ・聖路加の日野原先生。何だかほのぼのしたイメージで捉えていたが、実務的にもものすごく出来る切れ者だったのを本書で知った。地下鉄サリン事件の時に聖路加病院が最前線だったのだという。外来診療を止めたこと、礼拝堂にあらかじめ酸素吸入装置を設計しておいたことが被害を押さえる意味でよい方向に働いたようだ。 ・新宿の赤線、元は乳牛を飼育していた場所だったのだという。その飼い主が芥川の実父だったそうだ。 上記に加え、関東大震災や東京大空襲のことについても多くのページが割かれている。首都の繁栄の礎となった、歴史に埋もれる人々への鎮魂歌とも言える作品だろう。 *数々、へーと思うエピソードが盛り込まれているのだが、個人的にはやや読みにくかった。多分、エピソードの羅列と地図がどちらも苦手なためだろう。東京には何年かは住んだけれど、あまり自分の足で歩いていないのも大きい。多分、土地勘のある人なら、もっとおもしろく読めるのではないかなぁ。
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江戸時代の大火、流行病、罪人、維新の戦火、日清戦争、日露戦争、解剖、関東大震災、東京大空襲、東京には夥しい数の骨が埋められている。 それを引き受けた寺、墓地、霊園の変遷を東京の成立史として墓誌から読み取る東京散歩。 若干の世相批判を込めながら軽妙な調子で語られる。
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