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戦後日本スタディーズ(1) の商品レビュー

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2013/12/02
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 日本国家が「高度成長」時に形成した路線が新自由主義の波及で完全崩壊した中で、高度成長前の1950年代の社会運動にオルタナティブを模索する傾向がこのところ社会科学・人文科学の領域で強まっているようだが、ここでも表題は「40年代・50年代」であるにもかかわらず、実質的には50年代にもっていた「可能性」と「限界」を浮かび上がらせようとしている。ただし、基本的には個々の執筆者が好き勝手に書いたものの寄せ集めで、統一した「戦後」論が提示されているわけではない。  気になった論稿を挙げれば、まず内海愛子「サンフランシスコ講和条約と東アジア」。アメリカ政府は当初、大韓民国を講和会議に署名国として招請しようとしていたものの、日本政府がこれを拒否して実現しなかった。当時の日本政府が、在日朝鮮人の国籍選択権の付与を嫌い、また韓国が連合国となることで在日が財産補償権を有する「連合国」民となることを恐れたが故に、日米交渉で執拗な強硬姿勢を貫いたことを外務省文書から論証している。国籍選択権問題も財産権問題も「望ましくない」在日朝鮮人を日本国籍から排除するための「治安」問題ととらえていたと推定している。講和交渉における吉田茂の発言があまりにも露骨である。 「在日朝鮮人はきわめて厄介な問題である。かれらを本国に帰えしたい旨たびたびマ元帥に話した。マ元帥は、今帰えすと帰えされた者は韓国政府によって首を切られる。人道的立場から今はその時期ではないとの意見であった。しかし、朝鮮人は帰つてもらわぬと困まる。かれらは、戦争中は労働者として連れてこられ炭鉱ではたらいた。終戦後社会の混乱の一因をなすにいたつた。日本共産党は、かれらを手先につかい、かれらの大部分は赤い。」(外務省条約局法規課『平和条約の締結に関する調書Ⅴ』外交史料館蔵、p.12、重引)  戦没者遺族援護法においても、戸籍法適用の付帯条項を盛り込むことで、「日本国籍」はあっても「内地戸籍」のない旧植民地人を排除したことを明らかにしている。  屋嘉比収「米軍占領下沖縄における植民地状況―1950年代前半の個と情況について」は、米軍政の末端で沖縄住民でありながら住民と対峙することを余儀なくされた警察官、特に「ガード」と呼ばれる基地警備の補助警察官に着目し、ガードの苦悩と葛藤を描いた岡本恵徳の小説「ガード」を通して植民地状況と個の緊張関係を考察している。この小説は、生活苦の住民による米軍施設からの窃盗が常態化している中で、中国戦線での戦場体験がトラウマとなっている年長のガード「研三」と、貧しい家族を抱える年少のガード「行雄」を対比させる。研三は米軍施設を照らし出すサーチライトに自分が監視されている不安を覚えるほど植民地主義の暴力に自覚的であり、戦場での虐殺体験の記憶の反復故に侵入者へ銃口を向けて殺すことができない。一方、行雄はそうした暴力には無自覚だが、占領下での貧しさをはっきりと体感していて、「相手を殺さねば僕達一家が死なねばならない」という切迫感から、同じ島の人間を殺してしまう。行雄は米軍に賞讃され昇進し、取り巻き仲間も増え、生活の保障を得る一方、研三はガード仲間からも孤立していく。そして研三はついに見張りのさなか侵入者に遭遇するも発砲することなく撲殺されてしまう。行雄が、この社会で相手を射殺することなしには生きられない、と言い放って小説は終わるという。屋嘉比は生活か発砲かの二者択一を迫られる植民地状況の不条理をリアルに描き切ったと分析するが、「ガード」の主題は、植民地状況に限らず、むしろ現代の企業社会における労働者、資本の支配が時間・空間を貫き、資本に適した身体感覚を植えつけられ、弱肉強食状況を生きる「氷河期」時代以降の労働者の現況を彷彿とさせた。  本書は研究者による論稿のほかに、インタビューも載っているが、圧巻だったのが金石範へのインタビュー「4・3事件と文学的想像力」だった。1948年の済州島4・3事件のむごさ、過去を清算できない日本の「モラル」の欠如、敗戦直後の日本共産党と在日朝鮮人との関係の深さ、民族・国家・言語三位一体の「日本文学」と「日本語文学」の相違など論点は多岐にわたり、とてもそのすべてを受け止めることはできない。「自分を超越した現実の前には、人間は何もできない。やはり、本当の現実は敬虔な気持ちを起こさせますよ。フィクションに書くのは傲慢である」との一言が重い。(2010年1月11日筆記)

Posted byブクログ