カムイ外伝-スガルの島- の商品レビュー
映画「カムイ外伝」の原作。 とにかく映画を観た人、この本を一読願いたい。 読んで再びDVDで本編を見るときっとそれまで観たのと違う感想を持てるはずです。 これを読むとより映画「カムイ外伝」を楽しめる一冊です。
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崔洋一が「カムイ外伝」を映画化したと聞き、久しぶりに読み返したくなって小学館のマンガ文庫を、本棚の奥から引っ張り出した。 しかし肝心の「スガルの島」を収録した巻がない。 仕方なく書店に行ったら、新刊になって出ていた。さすが抜け目がないなあ、と思いつつ買う。 第二期「外伝」の筆致は...
崔洋一が「カムイ外伝」を映画化したと聞き、久しぶりに読み返したくなって小学館のマンガ文庫を、本棚の奥から引っ張り出した。 しかし肝心の「スガルの島」を収録した巻がない。 仕方なく書店に行ったら、新刊になって出ていた。さすが抜け目がないなあ、と思いつつ買う。 第二期「外伝」の筆致はすっかり時代劇画調で、描線が荒くなりだした「カムイ伝」の最終巻からしても隔絶の感があって最初はなじめなかった。 構図の採り方を見ても、こりゃ小島剛夕じゃないかと思ったものだ。画風の変化は、残酷描写のスケールアップをはかってのことだろう。 あてどなく流浪を続けるカムイの運命は変わらない。変わったことといえば、カムイが海と出あったことか。農村や山間に潜むことの多かったカムイが、初めて海に生きる人のあいだに潜んだのが「スガルの島」であった。いきいきと描かれる漁の風景や、闊達な海女の描写には、著者の素朴な感動も見て取れる。 ここで重要な変化が見られる。カムイの眼が変わったのである。張り詰めたような厳しさが消え、人間的なやわらかい光をたたえはじめる。 それゆえかどうか、カムイは次第に周囲の人々と濃密な関係を結ぶようになる。人々はカムイを受け入れ、カムイも彼らにたいして心を開き、思慕の念さえ抱きはじめるようだ。スガル一家のために、己が死ぬことさえ承知したカムイの心のありようも、それまでは見られなかった変化と言える。 関わった者たち全員の死で終わるのが、カムイの運命である。この「スガルの島」でもそれは同じである。読者もそれを承知でカムイの旅を見守ってきた。 だからこそ「スガルの島」篇の結末で、残酷な復讐に燃えるカムイは異様な感じがするのである。 その後の物語でも、カムイは社会の外縁に生きるさまざまな人に出会い、そして別れる。別離を繰り返すほどに、カムイの生気はますます衰えてゆく。深い悲しみがその眼から光を奪っていくのだろうか。第二期の後半になると、おそろしく虚無的な表情を見せるようになる。また、カムイが人に接する態度には、まるで悟りを開いたかのような沈着さが際立つ。そこには感情の動きがまったく見られない。燃焼しつくしてしまった、抜け殻のような人間がいるばかりだ。 絶望を生きることを引き受けたとき人は超人になるとニーチェは言ったが、忍者という超人を描き、社会の桎梏からの解放を目指していたかもしれない物語は、傷ついた人間の旅を追い、心の果てしない下降を丹念に描く連作となった。 間もなく「カムイ外伝 第三部」が始まるという。 人間カムイはどう生きるのか。再びなんらかの跳躍を見せるのか。 それとも虚無の岸辺にうち寄せられてしまうのか。 やはりカムイの旅に心がすい寄せられる。
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