ショスタコーヴィチ評盤記(2) の商品レビュー
『天使な小生意気』は、ほんとうは男の子だったのに魔法使いの呪いで女の子にされてしまったという、武道に長けた美少女・恵が、男らしく振る舞おうとすればするほど、女らしく可愛くみえるという逆説を繰り出し、「男らしい」とか「女らしい」って何だと思いもかけない方向から考えさせてくれた。そ...
『天使な小生意気』は、ほんとうは男の子だったのに魔法使いの呪いで女の子にされてしまったという、武道に長けた美少女・恵が、男らしく振る舞おうとすればするほど、女らしく可愛くみえるという逆説を繰り出し、「男らしい」とか「女らしい」って何だと思いもかけない方向から考えさせてくれた。その恵の男気に惹かれて集まった通称「めぐ団」に安田君というオタクがいるが、彼は恵とは別の意味でジェンダーを超える。ちびで分厚い眼鏡のいかにもオタク的風貌で、腕力はからきしないから、いつも一歩引いて観察している彼は、実は眼鏡を取ると女の子かと思うような可愛い顔をしているのだ。ところが美少女オタクの彼は、ときに「見えそうで見えないのがいいんだ。見えたらだめなんだ!」などといった哲学を熱く語り出し、そうするとものすごい迫力で周囲を圧倒する。 さて、これは『天使な小生意気』の書評ではない。『ショスタコーヴィチ評盤記』の書評である。『II』の方を先に読んで書評も書いてしまったし、そこで言及したことは本書についても全く当てはまる。だが、ここで是非、安田君にもう一度注目して頂きたい。本書でもショスタコーヴィチ・オタクの安田君の蘊蓄がおもしろいからだ。傍観者的に淡々としながら、実はとても熱く語っている感じがする。私はついつい『天使な〜』の安田君の顔を思い浮かべながら読んでしまった。本書では、当時完成されていたすべてのショスタコーヴィチ交響曲全集の品評が特別メニューである。ちなみに『II』の最後には安田君が自分の理想とする演奏を廃盤からいくつか選んで語るというコアな企画がついていて、これがあっちの安田君の「見えそうで見えないのが〜」みたいなノリで、わかったようなわからないようなディスクが並ぶ。ショスタコーヴィチのような分厚い眼鏡の底で安田君の目がきらりと光る。
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