ケプラーの夢 の商品レビュー
原書の題名は「夢、もしくは月の天文学に関する遺作」。惑星の運動に関する3法則を発見したケプラーが、夢の中で読んだ小説に仮託して描いた月旅行物語です。すでに絶版になっており、5年間捜し求めていましたがついに、今年になって神田の古書店で見つけました。文庫1冊で4,000円とはかなり高...
原書の題名は「夢、もしくは月の天文学に関する遺作」。惑星の運動に関する3法則を発見したケプラーが、夢の中で読んだ小説に仮託して描いた月旅行物語です。すでに絶版になっており、5年間捜し求めていましたがついに、今年になって神田の古書店で見つけました。文庫1冊で4,000円とはかなり高めでしたが、いい買い物だったと思います。 さて、ストーリーはすでに触れたとおり、夢の中で出てくる小説の主人公が、月に住むという妖精を召喚して月世界の話を聞く、というもの。しかし妖精が語る内容は、「月面から空を見上げたとき、地球や太陽、各惑星などはどのように運行しているように見えるのか」というものです。作品(あるいは論文?)自体は40ページ足らずなのにもかかわらず、その3倍近い分量の註がケプラー自身によって付されています。それらの記述は、当時の天文学の知見の粋を集めたような高度なもので、難解といわざるを得ません。しかしながら、その緻密な推論には圧倒されどおしでした。 なによりも、このような話を書いたケプラーの想像力には驚かされます。アポロが月に着陸して40年、月面からの映像を眼にすることが珍しくなくなったいま、「月から見た星空の様子」を、想像しうる人はどれだけいるでしょうか。最近も、月探査機「かぐや」からの「地球の出」の映像が流されていましたが、地球に同じ面を向け続けている月から見れば、地球はずっと同じ位置にとどまって見えるはずで、「地球の出」なる現象はありえないはずなのです。しかしそのことに、私はまったく気づけなかった。370年前を生きたケプラーから笑われているような気がします。 ケプラーが本書を書いた目的は、「天球にある惑星の運動は、基準となる星を変えればまったく違ったものに見える」と示すことにありました。それによって、天球の運行という見かけに騙されている天動説支持者に反駁したかったのでしょう。しかしそのような意図とは別に、本書ではケプラーの遊び心をも垣間見ることができます。「月までの途上、真空の宇宙では窒息してしまうが、鼻にぬらした綿をつめておけば大丈夫」といった記述に出くわすと、どこまで本気でどこまで冗談なのか、と可笑しくも感じられました。こういう本を絶版のままにしておくのは非常に惜しい、そう思います。 (2008年7月 読了)
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