国民国家と市民 の商品レビュー
論文集。どれも短いながら、たいへん読みごたえのあるものであった。 以下、とくに印象に残ったものをあげる。 ○第2章~第5章(第4章は少々趣旨が違うが、含めておく) スペイン・アメリカ・フランスのそれぞれにおける、国民国家形成ともない創出された「国民」と「市民」について議論を展開...
論文集。どれも短いながら、たいへん読みごたえのあるものであった。 以下、とくに印象に残ったものをあげる。 ○第2章~第5章(第4章は少々趣旨が違うが、含めておく) スペイン・アメリカ・フランスのそれぞれにおける、国民国家形成ともない創出された「国民」と「市民」について議論を展開。 スペインの「国民」は、南アメリカの植民地を含む「スペイン全国土に住む者」と定義されたが、一方で政治参加の権利を有する「市民」については、非白人を排除する方針がとられた。 アメリカに関しては我々の予想を覆す。建国以前から市民が民主的に政治に参加するという体制が整っていた、というのは間違いであり、独立戦争・米英戦争を通して「国民」・「市民」像が形成されていく様を論じる。 フランスでは、革命を経て「フランス国民」と「市民」が誕生するが、人口の大多数である「農民」たちは「市民」とはほど遠い生活を続けていた。そんな「異質」な彼らがどのように「市民」として取り込まれていくかが描かれる。 これら3国の事例から分かることは、国民国家共同体を形成する「国民」と政治的権利を有する「市民」は、必ずしも同一ではない、ということ。この2つの区別はとても重要だと感じた。 ○第9章 最も心に響いた論文。 消費社会が浸透し、イデオロギーに反発することがなければ生活の安泰は保証される――そんな「プラハの春」以降のチェコにおいて、「チェコ市民/国民とは」を問う。 ひとつの軸は「言語」を「国民」形成の中核とするもの。もうひとつは、不当な社会的抑圧への「反抗」を同様に中核とそえるもの。しかし、そのいずれの選択肢も十分ではなく、最終的には「祖国を思う」という道が示される。 この3つの軸が示唆に富みとても良い。また読み返したいな、と思う。
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