庭をつくる人 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
「わたくしは子供のころは大概うしろの川の磧で暮らした。」 川から流れを引いて、砂利を積んで石垣をつくって、自分だけの庭をつくる。 「幼年時代」に書かれていたことがどれくらいほんとうかわからないけれど、過酷な少年時代を過ごした著者にとって、庭をつくることは自分を守ることだったのかなあ、と。「秘密の花園」みたいな。 「自分は竹林の中に亭を作り、亭の中に書屋を置きたいのである。 …ともあれ、書屋の中には心で楽しめる類のものを蒐め、ひとり静かに風亙る竹林の中に坐すべきである。」 「わたくしは実際よく夢を見るが、その空想と同じいやうに庭のことばかり夢見てゐた。」 好きなものについて語る言葉が美しくて、読んでいて心地よい。 「木の枝のからだに触れるのは恋のやうに優しいものである。 松のみどりは冷たく幹は温かいものである。石は枝を透いた日を帯びてしばらくは秋をとゞめてゐる。」 犀星の庭を検索したら、軽井沢のそれの画像がたくさん出てきた。苔の庭って陰気なイメージだったけれど、全然違って、緑が美しくて眩しいような庭だった。
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80年以上前に出版された本の復刻。「蜜のあはれ」「火の魚」等を読んで、「室生犀星はすごいな(変態だな)」と思い、読んでみた。庭の石になめるような視線を向ける。映画評でもほとんど女優しか見ていない。確かに変態だ。しかし説得力がある。自分が美しいと思ったものを、どのように美しいと思っ...
80年以上前に出版された本の復刻。「蜜のあはれ」「火の魚」等を読んで、「室生犀星はすごいな(変態だな)」と思い、読んでみた。庭の石になめるような視線を向ける。映画評でもほとんど女優しか見ていない。確かに変態だ。しかし説得力がある。自分が美しいと思ったものを、どのように美しいと思ったかを的確に表現するその力量はすごい。だから犀星の変態的な感動も実にクリアに読む者に伝わってくる。やたら「変態」と書いたが、もともと「エロス=美」と考えれば、犀星は恐るべき審美眼の持ち主であったといえる。雑多な文章が収められているが、どれも読んでいて心地よいものばかり。上質の癒しが得られる。
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室生犀星をそれほどたくさん読んでいるわけではないが、この人の書くものにはどこかなつかしい佇まいがある。 詩人にも俳人にも文人にもおそらくなれない自分だが(茶人もなかなか遠そうだ・・・)、読書中に漂う時間が愛おしかった。 犀星先生を訪ねていって温かく迎え入れられるかどうかは心許な...
室生犀星をそれほどたくさん読んでいるわけではないが、この人の書くものにはどこかなつかしい佇まいがある。 詩人にも俳人にも文人にもおそらくなれない自分だが(茶人もなかなか遠そうだ・・・)、読書中に漂う時間が愛おしかった。 犀星先生を訪ねていって温かく迎え入れられるかどうかは心許ないが、本の中で犀星先生の庭をひっそり訪れることはできる。それもまた読書の醍醐味か。 *「馬守真」と「冬の蝶」がよかった。 *「震災日録」で罹災を知る。産後間もない奥さんは大変だったことだろう。
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-「庭をつくる人」と題したのも予の心に最も近いだけで別に深い意味がある訳ではない- 「序」のこの一文でもう、室生犀星ってそんな作家だったの?と裏切られまくり。短い文章は読みやすいし、読んでいて静かに楽しい。
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この「たなぞう」で教えていただいて気にしていて、それで出会うことができました。そうかぁ、昭和2年に、こういう本が出ていたんだ、と。いやはや、この文庫版、満足なり。実は、室生犀星のことを「昭和の文豪」(カヴァーより)だと感じたことがなかったのです、私は。この「犀星バラエティブック」...
この「たなぞう」で教えていただいて気にしていて、それで出会うことができました。そうかぁ、昭和2年に、こういう本が出ていたんだ、と。いやはや、この文庫版、満足なり。実は、室生犀星のことを「昭和の文豪」(カヴァーより)だと感じたことがなかったのです、私は。この「犀星バラエティブック」を手にして、それにも納得いきそうな予感がしています。予感、なので、それを予感として秘めつつ、犀星について、これから少し載せようと思っています。著者の意向によるタイトル、見事!「永日閑を愛する人々」の一になりたし、と思へども。
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