リスクにあなたは騙される の商品レビュー
オリンピックではドーピング検査が何度も行われる。薬物摂取による運動能力強化は、人体に危険であると言われるが、著者はスキーのエアリアルなど一部オリンピック競技の方が、ドーピングよりも人体に損害を与える確率が高いと指摘する。9.11事件後、アメリカの人々は飛行機に乗るのは危険だと思っ...
オリンピックではドーピング検査が何度も行われる。薬物摂取による運動能力強化は、人体に危険であると言われるが、著者はスキーのエアリアルなど一部オリンピック競技の方が、ドーピングよりも人体に損害を与える確率が高いと指摘する。9.11事件後、アメリカの人々は飛行機に乗るのは危険だと思って、車で長距離移動するようになった。現実ではテロにあう確率、飛行機事故にあう確率より、自動車事故にあう確率の方が、はるかに高い。しかし人々は、ニュース映像に恐怖して確率計算を誤り、自動車を利用した。当然の結果として9.11後、全米で自動車事故死する人が急増した(しかし、メディアはこれをニュースとして伝えず、テロの危険を煽り続ける)。 人間は「頭」で合理的に考えて危険の確率を計算するより、「腹」で本能的に直感して、物事の危険度を判断する場合の方が多いという。 目にしたもの、耳にした情報から直感的に危険度を判断して行動した方が、頭でじっくり考えるよりもよかったのは、石器時代以前の話である。テロにあう確率はイスラエルとパレスチナ以外の国ではきわめて低いのに、テロ事件のニュースを見れば、人々は自分もテロにあうのではないかと恐怖する。この非確率的な直感の判断は、石器時代の名残だと指摘される。人類が文明を手にしたのは、人類の歴史の中で、ほんの短い期間に過ぎない。文明なく生活した時代の方が長いから、人は今でも直感で危険の確率を見誤ってしまうのだという。 著者は、現代は人類史上最高に安全な時代であるのに、メディアが危険を煽ってばかりいるとも指摘する。例えばマスメディアは、アフリカの未開民族の大自然に包まれた生活を称揚する。しかし、専門研究者の調査によると、一見温和そうな彼らの間には、紛争や犯罪などを原因として死亡する危険が、現代都市で暮らすよりもはるかに高いのだという。 何故メディアは危険を煽るのか。危険が迫っているという情報を流した方が、平和が広まっているという情報を流すよりも、人々の注目を集めやすいためである。 人間は生き延びるために、危険の情報を摂取しようとする。危険を告げて、その危険はこうすれば回避できますと宣伝すれば、政治家は選挙で当選するし、企業は商品が売れる。 人工化学物質は体に悪い、天然の素材、食品がよいという現代文明批判が多いが、著者は、天然の化学物質の中にも人体に有害なものはたくさんあるし、化学物質まみれで不健康なはずの現代人は、寿命が人類史上最長であると反論する。健康になりたければ、食生活を変えたり、運動時間を増やしたり、睡眠時間を長くしたりと、生活習慣を変えるのが一番だが、生活習慣を変えることは、「腹」にとってはとても面倒なことだ。故に「この○○が健康に悪い」という「腹」にとって心地いい仮説がマスメディア上で広まるのだという。 テロリストが大量破壊兵器を開発しているという説にも、著者は否定的だ。イスラエルとパレスチナはずっと紛争を続けているが、大量破壊兵器を使用して、敵対民族を完全抹殺することは、現実的におきそうもない。大量破壊兵器を作り出し、管理維持し、実際に使用するには、研究開発費、兵器の材料、施設と、知識豊富で優秀な技術者と、兵器管理のノウハウが必要になる。よっぽど強大でお金のあるアメリカみたいな巨大国家でなければ、大量破壊兵器を作って実用化することは不可能なのだ。 アルカイダなどのテロ組織に大量破壊兵器を作ることは不可能、過去最大に技術と兵器を蓄えたテロ組織は、日本のオウム真理教だったという指摘が面白かった。ハルマゲドンを起こそうとしていたオウムのレベルでも、最大に成功した地下鉄サリン事件で死者は12名のみ。テロリストは、政治家やメディアが恐怖をはやしてたてるほどには、殺傷力を持っていないのだ。 現代世界は過去の歴史上最高に平和である。人類が六十億人以上もいるのだから、ほとんどの人が遭遇しえないような凶悪な事件、事故、テロは、世界のどこかで毎日起こりえる。それをニュースにすれば、メディアは注目を集める。 「世界は毎日平和です。今日こんな良いことが起きました」というニュースの方が、凶悪事件のニュースよりはるかに多く発生しているにも関わらず、グローバル展開している大手マスコミは、そんなニュースを絶対流さないだろうという悲しい結論にいたる良書だった。
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膨大な実例だが、要旨は「メディア(権力)はリスク(恐怖)を過大に流布して人々を操っている」と単純明快。ただ、ありがちな陰謀論ではなく、それを手段として認識している冷静な本。
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メディアが報道する(雑誌や書籍も)ものは、 事実のすべてではなく、一部のみである。 その一部は、自分の視点(都合)にあわせている。 その一部を私は、私の視点で読んでいるのは、何ともいえない。 ト、2009.12.2-12.13
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人間は「腹」で判断しているので、恐怖に動かされてしまうが、リスクという点では今ほど良い時代はない。 理性と感情は別次元と思っていましたが、判断という同じ軸の多重システムなわけですね。
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ただでさえ統計的リスク分析が大の苦手なぼくらが、「恐怖」を宣伝するメディア、政府、市民団体に囲まれ、まっとうなリスク分析が出来なくなっているかを様々な事例を基に検証している本。言いたいことはよくわかるし、問題意識には多いに同意出来るんだけど、じゃあ、どうすればまともなリスク分析が...
ただでさえ統計的リスク分析が大の苦手なぼくらが、「恐怖」を宣伝するメディア、政府、市民団体に囲まれ、まっとうなリスク分析が出来なくなっているかを様々な事例を基に検証している本。言いたいことはよくわかるし、問題意識には多いに同意出来るんだけど、じゃあ、どうすればまともなリスク分析が出来るかが書かれていないのは大きな欠点。シュナイアーの『セキュリテイは何故やぶられたのか』や松永 『メディア・バイアス』等の様な類書に比べると、その部分がどうしても弱く感じてしまう。世の中どんどん良くなってきてるということがどうしても信じられない人は必読。
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