スピノザの哲学 の商品レビュー
本書のスピノザ解釈の特色は、次の二点にある。一つ目は、スピノザの哲学体系の中に当の哲学的な学知がどのように位置づけられるのかという問題を詳しく論じている点。もう一つは、デカルト以来の理性的主体性の立場を、スピノザの汎神論哲学の内に見いだそうとしている点である。 著者は、スピノザ...
本書のスピノザ解釈の特色は、次の二点にある。一つ目は、スピノザの哲学体系の中に当の哲学的な学知がどのように位置づけられるのかという問題を詳しく論じている点。もう一つは、デカルト以来の理性的主体性の立場を、スピノザの汎神論哲学の内に見いだそうとしている点である。 著者は、スピノザ哲学の方法論ともいうべき『知性改善論』の内容を検討し、そこで論じられている「知性」の性格がどのようなものだったのかを確認している。『知性改善論』の主題は、私たちが正しい認識に到達するための方法である。それゆえ、そこで論じられている「知性」は私たちの知性のことだと、ひとまずは言うことができるだろう。ただしスピノザが重視したのは、心理学的な作用としての「知性」ではなく、対象から独立の「観念」、それも実在的で「形相的」な観念ではなくて、「観念内本質」(essentia objectiva)としての観念だった。この観念を吟味することで観念自体の真理性を明らかにすることが、スピノザの考える知性の純化・改善だったのである。 だがこうしたスピノザの方法は、最高完全者としての神の観念から始めることを要求するのではないか。『知性改善論』から『エチカ』へのスピノザの歩みは、こうした要求に答えるものだったということができる。『エチカ』の議論は、唯一の実在である神が自己を開示するという仕方で展開されている。そして、この展開の媒介となっているのが、思惟における「無限様態」としての「無限知性」だと著者は解釈する。哲学とは神の知的自覚であり、スピノザは「神の観念」が「無限知性」にほかならないと論じていることが、その根拠とされる。 さらに著者は、デカルト以来の近世哲学を人間的主体性の哲学と特徴づけており、スピノザの哲学にもその刻印が見られることを明らかにする。著者が注目するのは個体が自己を維持する「自存力」(conatus)である。スピノザはこの自存力を基礎として道徳の理想である「知的愛」を説いている。これを著者は、スピノザの汎神論の中に近世的主体主義の発想が生きている証拠とみなすのである。
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