全世界のデボラ の商品レビュー
違和感や不安感を心の中に残す描写を淡々と重ねられることで、現実的で悲壮感のある、少し気持ち悪さが残る独特の雰囲気に呑まれていく。描写力があるからこその作風だと思う。 今まで読んだ平山さんの小説の主人公は、青春の中にいるか、大人になってはいるが青春を過去にできていないという感じだっ...
違和感や不安感を心の中に残す描写を淡々と重ねられることで、現実的で悲壮感のある、少し気持ち悪さが残る独特の雰囲気に呑まれていく。描写力があるからこその作風だと思う。 今まで読んだ平山さんの小説の主人公は、青春の中にいるか、大人になってはいるが青春を過去にできていないという感じだった。しかし、この短編集に居るのは皆過去を一旦はきっちり区切った「大人」だ。 奇妙な「大人」の作品を「大人になれなかった大人」が読んでいる。憧憬、諦観、不安、嫉妬、一人取り残されていく自分の底に溜まる、不安定などろどろが目に映る。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 再読。短編集なので、時間が空いたときに気に入った作品をちょこちょこと読んでいる。SFともなんともつかない、ちょっとだけずれた世界。もしくは主人公たちの側がずれていく。余韻を残す終わり方が好きだ。またこの作家さん、比較的淡々とした描写ながら、たまに数行、はっとするような、とっておきたい表現が出てくるのが癖になっている。「歳の近い保護者のような気持ちであったと思う・・・本当に彼女の肉親であれば、と思った。そうすれば、不意に沸き起こったこの愛情を、掛け値なく正当なものと見なすことができるのに。」(表題作より)
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短編集。正直、全体的によくわからない世界。 得体が知れない、不安定、不条理、割り切れない・・・そんな言葉しか浮かばない。 その気味悪さの中にどことなく淫靡さが漂っているような。妄想と現実をフラフラと行ったり来たりしている感覚。よく言えば幻想的と言うのだろうか。 果たして深いのか、...
短編集。正直、全体的によくわからない世界。 得体が知れない、不安定、不条理、割り切れない・・・そんな言葉しか浮かばない。 その気味悪さの中にどことなく淫靡さが漂っているような。妄想と現実をフラフラと行ったり来たりしている感覚。よく言えば幻想的と言うのだろうか。 果たして深いのか、、、自分には読み解けなかったように思う。このわけわからない感じが嫌いではないけれど好きとも言い難い。 混沌としたグレーな世界観。後味悪いです。
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見慣れないロゴだとは思ったが新レーベルだとは気づかなかった。SFでもない、ファンタジーともまた違う、良く知る日常の中にいつの間にか混じった異音がキンキンと響くのではなく、ごく自然に新鮮な刺激へと誘導してくれる。大分昔に数冊読んで好印象を持っていたが久しぶりに読んでも面白く、嬉しか...
見慣れないロゴだとは思ったが新レーベルだとは気づかなかった。SFでもない、ファンタジーともまた違う、良く知る日常の中にいつの間にか混じった異音がキンキンと響くのではなく、ごく自然に新鮮な刺激へと誘導してくれる。大分昔に数冊読んで好印象を持っていたが久しぶりに読んでも面白く、嬉しかった。その間に著作もかなり出ているようなので他の作品を読むのも楽しみ。
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どれも面白いからこそ、あともう一つ何かが欲しい!!と思うもどかしさを感じる。あともう少し書いてはしい部分(「海」とか「野天人」とか)があるのと同時に、ちょっと書きすぎかなと思うような部分もある。出来がいいのは「均衡点」、好きなのは「精を放つ樹木」かな。「駆除する人々」は完全に『進...
どれも面白いからこそ、あともう一つ何かが欲しい!!と思うもどかしさを感じる。あともう少し書いてはしい部分(「海」とか「野天人」とか)があるのと同時に、ちょっと書きすぎかなと思うような部分もある。出来がいいのは「均衡点」、好きなのは「精を放つ樹木」かな。「駆除する人々」は完全に『進撃の巨人』でした
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伏線も回収せず盛り上がりどころでブツンと切る書き方が、所謂そういった趣向なのだと気がついたときには終盤戦だったので、二回続けて読み直した。何も考えずに読むべき話ではなかったな、と、表紙のロゴを見ながら再考。角度によっては煙に巻いたような話ばっかりでつまらないって人もいるかもだけど...
伏線も回収せず盛り上がりどころでブツンと切る書き方が、所謂そういった趣向なのだと気がついたときには終盤戦だったので、二回続けて読み直した。何も考えずに読むべき話ではなかったな、と、表紙のロゴを見ながら再考。角度によっては煙に巻いたような話ばっかりでつまらないって人もいるかもだけど、どうしてなかなか、このレーベルが好きになりそうな予感がする。 ざわ…。 一番分かりにくかったのは二つ目の話だけど、いっちばん好きなのも二つ目の話。終わり方が綺麗すぎて主人公共々呆然。中途半端なのに決して中途半端ではない。かっこよすぎやろ。惚れてまうやろ。 ただこの人が長編を書くとどうなるのか…は、ちょっと予測がつかないかも。
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「過去は決して、未来に勝てない。未来には無限の可能性がある。過去については、もう何ひとつ選べない。」−『精を放つ樹木』 SFが読者を未だ見たことのないような世界へ連れていってくれるのを前提とするなら、確かに「想像」は大いに必要で、「想像力の文学」という表現にも理があるような気も...
「過去は決して、未来に勝てない。未来には無限の可能性がある。過去については、もう何ひとつ選べない。」−『精を放つ樹木』 SFが読者を未だ見たことのないような世界へ連れていってくれるのを前提とするなら、確かに「想像」は大いに必要で、「想像力の文学」という表現にも理があるような気もするのだが、舞台ばかり幾ら目新しい装置で埋め尽くされていても、そこに人が登場する限りドラマツルギーに見たことのない世界が開けてくることは滅多にないと思う。そのことは「全世界のデボラ」でも残念ながら例外ではない。本当の想像力、つまり創造性は、そのドラマツルギーからどの位離れられるか、というところにあるようにも思うのである。 この本に収められた7つの物語でも、主に二人の人物の関係性をめぐる物語が展開する。周りに不思議な世界が漂うのでうっかりそちらへ気を取られると珍しいものを見たかのような気分になるが、話の中心が二人の関係にあると思ってしまえば案外古典的であるとも思う。いずれの話も、関係性のやや不透明な登場人物が実は根源的な欲望によって引き合うというところまでは同じである。周りのSF的カモフラージュを取り払ってみると、そこに案外強い性的臭が漂う。一つの話だけ、複数の男女関係が扱われるのだが、基本的な匂いは同じである。また一つの話では、話に登場する男女はお互いを引きつけ合うのではなく、その向こうに自分が引き寄せたい人物を投影するという構成上のバリエーションがあるが、これも男女の関係が深い意味を持つ。 そんなこと言ったって、多かれ少なかれほとんどの小説はどれもそういうテーマを扱っているのでは、という声が聞こえてきそうであるけれど、余りに解り易い関係へ話が繋がっていくことは、どこへ行くのかが解らない関係の話を読む時に比べて、脳の温度を低温にする。目新しい舞台装置がなくたって、脳をぐつぐつ高温にする小説だってあるのだ。 それでも辛うじてこの短篇集が興味深いのは、余りに解りきった関係性の展開の後に、少しずつ異なる後味を残す着地点があることだろう。それが各々の話を個性化していると言えば言える。書き切らないことによって読者に「想像」させる余地を残す。 ああでも、こういう動く歩道に乗っていくような物語は、やはり少し苦手である。
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短編7編。SFマガジン収録の6編に書き下ろし1編を加えたもの。対象がSF読者と言うことで、一般人には敷居が高いかもしれません。けっしてSFが嫌いじゃない僕ですが、「三崎亜記になろうとしてなれなかった平山」としか思えませんでした。
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