理性への希望 の商品レビュー
ドイツ啓蒙主義に関する概説書。「啓蒙の土地」、「哲学の図像学」、「哲学の概念」、「真の啓蒙と高次の啓蒙」の四章から成る。イギリスに端を発しフランスの「フィロゾーフ」を経由してカントに至るP. アザール、カッシーラー、ゲイらによる18世紀啓蒙主義思想史とも、人類の文明化を「啓蒙」と...
ドイツ啓蒙主義に関する概説書。「啓蒙の土地」、「哲学の図像学」、「哲学の概念」、「真の啓蒙と高次の啓蒙」の四章から成る。イギリスに端を発しフランスの「フィロゾーフ」を経由してカントに至るP. アザール、カッシーラー、ゲイらによる18世紀啓蒙主義思想史とも、人類の文明化を「啓蒙」と一括りにして捉えるアドルノ=ホルクハイマーの『啓蒙の弁証法』とも一線を隠す研究であり、カント以前のドイツ啓蒙主義の潮流に焦点が当てられている。訳者解説でも注目されているように、第二章は当時の哲学書の扉絵を題材として、図像による内容の提示という文化を明らかにしている。また第三章は、哲学を善や幸福との関連で機能的に定義するトマジウス派と可能なもの全てを哲学の対象と見なすヴォルフ学派との間での哲学観の相違から出発して、その対立がメンデルスゾーンなどの「通俗哲学」によって乗り越えられていく様が描き出される。最終章は、フランス革命とほぼ同時期に啓蒙の自己理解が動揺し、啓蒙を「真の啓蒙」と「偽の啓蒙」に区別する捉え方が登場した点に軽く触れつつ(政治思想的には一番興味深いところ!)、現代において啓蒙を綱領とするにはどのように考えればよいのかという点に論を進めている。従来の啓蒙主義思想史では中々補えないドイツ啓蒙の様々な論点を提示しているという点で、極めて重要な訳書だと思われる。
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