オペレーショナル・リスク管理高度化への挑戦 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
オペレーショナル・リスク管理についてのハウツー本は市場リスク並びに信用リスクのそれと比べると極めて少ない、というのが私の実感です。そんな中で、この本は実務面における経験がふんだんに盛り込まれているという点に於いて、経験のある人は「やっぱそうだよね」と共感できたり、また、経験の無い人も「そこまでやるのか。」と思うと同時に膨大な作業内容に唖然とさせられるだろうということを予め知ることができると言う意味で、非常に価値ある書籍であると思います。 先に申し上げておきますと、私はこの本のタイトルを見て、内容を完全に理解すればオペリスクの計量化作業がよくわかるようになるかと密に期待していました(その期待は良くも悪くも打ち破られます)。 1章/2章 この本を手にする大半の人にとっては、57ページから始まるAMA(先進的計測手法)の説明以前の部分は必要ないかもしれません。本のタイトルに“高度化への挑戦”という表現が含まれているので、手に取る人も潜在的に自行におけるリスク管理手法をAMAへ引き上げるための参考書籍であることを期待していると思われるからです。ただ、それ以降の部分も計量化を行う上での詳しい説明は3章に譲られており、要するに“やるからには腹を据えてね”と言うことだと思います(笑) 3章 他のオペレーショナル・リスク計量化に関する書籍・セミナーと比較するとやや詳しめに記載されています。ただ、ここを理解したからといって即実戦力がつくかと言うと、否です。計量化に関する内容は、一企業の秘密をさらけ出すことになるので、詳しくは書きたくてもかけないと言うのが本音ではないでしょうか。 これからオペリスクの計量化に当たる人は、市場・信用リスクにおける計測手法をどのようにオペリスクに応用するかを自分で導き出さないといけないようです。 4章 正直な話、3章に個人的に一番期待していたのですが、いざ読んでみるとこの章が長い目で見て一番役立つ内容ではないかと思いました。 実務的にはだかる壁をどのようにして登っていったのか、その苦労が随所に垣間見えます。 99%VaRにある係数γをかけて99.9%VaRを算出するといった内容や、マグニチュード評価によるリスク削減の取り組みといった、普段あまり聞けないようなこと、オペレーショナル・リスクアセット配賦によるリスク削減の取り組みなど、特に最後の例については、ややもすると「オペリスク管理って意味あるのか」と営業部門等から言われそうな実状があると思います。そんな現状にオープンかつ、真正面から立ち向かっていくその姿は、率直に私も倣わなければいけないなと思いました。 5章 欧米の銀行におけるAMA手法の多様性の紹介に驚きました。クレディスイスのやり方に「ホントにそれでいいの?それでAMA名乗っていいの」と思わざるにはいられませんでした。 テール部分のデータが足りないといった話も記載されており、"JPMがついにやらかしました"→"もうVaRはだめだ"→"ショートフォール仮説云々~"といったこのご時世ではちょっと興味深い内容かもしれません。 といろいろ知ったかぶってレビューを書かせていただきましたが、皆さんの参考にちょっとでもお役にたてればと思います。 「こいつ全然分かってねえな」と思った方、正解です。 そんなあなた方にキャッチアップできるようこれからもがんばりたいと思います。
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