三木清 の商品レビュー
三木清の生涯と思想をコンパクトに解説している評伝です。 三木は『パスカルに於ける人間の研究』において、留学時にハイデガーから学んだ考えかたを生かして、パスカルの思想を彼自身の人間学の観点から解釈しました。その後の彼は、マルクスの思想についてもやはり人間学の立場から解釈し、教条的...
三木清の生涯と思想をコンパクトに解説している評伝です。 三木は『パスカルに於ける人間の研究』において、留学時にハイデガーから学んだ考えかたを生かして、パスカルの思想を彼自身の人間学の観点から解釈しました。その後の彼は、マルクスの思想についてもやはり人間学の立場から解釈し、教条的なマルクス主義者からの批判を受けながらも、哲学における主体性の重要性をけっして見うしなうことなく、歴史や技術といった哲学的テーマについて考察を進めていきます。 著者はこうした三木の思想について、実践のなかで経験と存在をとらえ返すところにその意義が存在するといいつつも、物質を解釈学的な概念と規定している点で、唯物論の中心的な思想と背馳する観念論とみなされることになったと指摘しています。 さらに、近衛文麿のもとに集まった思想家たちの「昭和研究会」における三木の思想についても、彼が当時の状況のなかで可能な発言を模索しつつ、日本の進む道を方向転換しようと試みていたことを評価する一方で、アジアに対するまなざしが欠如していたなど、こんにちから見て批判されるべき点が存在していると結論づけます。 三木という多面的に活躍した思想家をあつかっているため、議論が散漫になってしまいがちだと思われますが、本書は読者が彼の人物と思想の両面について、ある程度一貫した見通しを得ることのできる入門書ではないかと思います。
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