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完訳 カント政治哲学講義録 の商品レビュー

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2021/02/11

カントは政治哲学について書かなかったが、その著作を通して政治哲学が見えてくるという主張。判断力についての考察を通して読み解いていく。 翻訳が分かりにくい。

Posted byブクログ

2017/12/19

アーレントの最後の著作「精神の生活」は、「思考」「意志」「判断」の3部構成になるはずだったのだが、アーレントは2部の「意志」を一通り仕上げた翌週、「判断」の標題と2つの題辞からなるタイトルページをタイプしたところで、心臓発作で死去。 「思考」「意志」が西欧思想の批判で一種の袋小...

アーレントの最後の著作「精神の生活」は、「思考」「意志」「判断」の3部構成になるはずだったのだが、アーレントは2部の「意志」を一通り仕上げた翌週、「判断」の標題と2つの題辞からなるタイトルページをタイプしたところで、心臓発作で死去。 「思考」「意志」が西欧思想の批判で一種の袋小路に入ってしまう構成になっていて、「判断」は、「精神の生活」の第3部というだけでなく、そこに「袋小路」を抜け出すアーレントの晩年の思想の中核があった思われることから、「判断」がどういう内容だったのか、というのは、好奇心以上のものとしてある。 で、その「最後の思想」を推察するヒントが、「カント政治哲学講義録」ということになっている。 「精神の生活」の「意志」はかなり難解だったのだが、こちらは、大学での講義をベースとしたものなので、比較するとかなり読みやすい。 アーレントの「判断」論は、カントの「判断力批判」がベースになっていると言われているのだが、この本は、「判断力批判」だけでなく、カントを政治哲学として読むという試み。 と言っても、カントは「政治哲学」なるものを明示的に書いているわけではない。アーレントは、「啓蒙について」「永久平和のために」などの小論文に加え、通常は「美学」の問題として読まれている「判断力批判」を政治哲学として読んでいて、カントは書かなかったけど、カントの著作全体に潜在的に存在する政治哲学を読み取る。 カント哲学は苦手な私には、この読みがどの程度「正しい」かは全く判断できないが、晩年のアーレントの政治哲学をかなりまとまった形として表現しているものとして、かなり面白かった。 そして、大いに助かったのが、編者のベイナーの「ハンナ・アーレントの判断論」という解釈論文。これは、このカント講義だけでなく、「判断」について、アーレントがどう考えて、それがどう変化していったかについて、アーレントの主要論文を丁寧に紐づけていく。 何か、正しいというものが存在するわけではない。もし、何か正しいものがあるという前提にたつとそれは全体主義に向かう危険性を持つ。 一方、全てが相対的であり、無価値であるとすると、そこに人間が生きる意味はなく、そのニヒリズムはまた全体主義の温床になる。 そうした二極の間に、「共通感覚」がある、というところに注目してみる。例えば、「バラは美しい」と思う。それは、人に共通する感覚であるが、絶対の真理として抽象的に「バラは美しいものである」というものが存在するわけでもない。つまり、個人の個別的な感覚でありながら、他者とコミュニケーション可能なものとしてある。いわゆる「間主観性」の領域である。 このコミュニケーションを可能にしていくため、「相手の立場で考える」ということが「判断」のポイントとなっていく。 という感じで、もともと「美学」の「判断」の話しを「政治」の「判断」の話に読み替えていく。ここに「判断」が、「人間の条件」などの「前期アーレント(?)」の「活動」や「公的領域」、「生まれ」「世界への愛」などの主要概念に接続していく見通しが浮かび上がってくる。 これで、「精神の生活」を読んでの結論部分が欠けているフラストレーションは、かなり解消できた感じ。(と同時に、「精神の生活」の第3部が書かれていれば、「人間の条件」と並び立つ政治哲学の古典となっていたであろう残念な気持ちも強まる) 晩年のアーレントの最重要コンセプトであった「判断」がある程度見渡せたところで、アーレントの政治思想のもう一つの大きな流れである「ユダヤ人」問題を理解すべく、遺稿集の「ユダヤ人論」に挑むことにする。

Posted byブクログ

2013/09/29

アーレントによる講義と編者ベイナーによる解説論文を掲載している。「カント政治哲学講義」と題されているものの、中心的に取り上げられるテキストは『判断力批判』第一部である。美学的判断が他人に同意を求めるというカントの洞察が、アーレントによって政治的判断の議論に転化される。その際に問題...

アーレントによる講義と編者ベイナーによる解説論文を掲載している。「カント政治哲学講義」と題されているものの、中心的に取り上げられるテキストは『判断力批判』第一部である。美学的判断が他人に同意を求めるというカントの洞察が、アーレントによって政治的判断の議論に転化される。その際に問題となるのは、カントが思考の三つの格率として掲げるもののうちの一つ、他人の立場に立って考えること、である。この「拡張された思考様式」こそが、美学的判断および政治的判断の公共性の鍵になっているというのがアーレントの見立てである。もちろんカントの文字だけを忠実に読めば、このような政治理解がカント自身の考えとは一致しがたいようにも思われる。しかし、きわめて抽象的な判断力論を具体的生活に位置づけるための改釈の一つとして、アーレントのこの講義録は極めて興味深い取り組みの一つである。

Posted byブクログ