童貞の教室 の商品レビュー
「よりみちパン!セ」シリーズ。『童貞。をプロデュース』で知られる映画監督の松江哲昭が、自身の喪失体験などを記した童貞ルポ。とことん痛い…けど男子なら誰もが共感するはず。古泉智浩のマンガも収録。
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理論社のよりみちパン!セシリーズは、けっこうたくさん読んでいる。 最近ので空いてるやつあるかな~と図書館の蔵書検索をしたら、『どんとこい、貧困!』と『前略、離婚を決めました』は何人か待っていて、『きみが選んだ死刑のスイッチ』は貸出中で、このへんはまたにすることにして、『童貞の教室...
理論社のよりみちパン!セシリーズは、けっこうたくさん読んでいる。 最近ので空いてるやつあるかな~と図書館の蔵書検索をしたら、『どんとこい、貧困!』と『前略、離婚を決めました』は何人か待っていて、『きみが選んだ死刑のスイッチ』は貸出中で、このへんはまたにすることにして、『童貞の教室』と『だれでも一度は、処女だった。』が空いていたので予約した。先にきたのが『童貞の教室』。 この本、松江哲朗が文章を書いて、古泉智浩がマンガをかいている。松江は『童貞。をプロデュース』という映画(もちろん『野ブタ。をプロデュース』をパクったタイトルである←野ブタの著者は『空に唄う』を書いた人)をつくって注目された人だそうだが、その前には『あんにょんキムチ』を撮った人。見たことはないが、『あんにょんキムチ』というタイトルは私もなぜか知っている(『童貞。をプロデュース』は知らんかったけど)。 ▼童貞はある程度離れた距離から見ることで、笑える存在にもなるのだけれど、いままさに童貞である本人にそんな客観的な視点はあるはずない。やることなすこと、常に真っ正面のド真ん中。場合によっては犯罪ギリギリさ。いや、一線を越えてしまうこともある。… 決して肯定するわけではないが、僕は十代の「きっと彼は童貞だったんだろうな」と思わざるを得ない犯罪が起こると胸が苦しくなる。彼らの世界観の狭さが痛々しいから。あと数年もして学校を卒業すれば、町を出る勇気があれば。ほんのちょっとの一歩で世界はグンと広がるのに…。僕はそんなことを映画や音楽や本に教えられた。…(p.174) ▼君の考える世界は、しょせんは君の頭の中にしかない。でも、世界はもっと広く、もっとでっかい。 そのことは、「自分以外のもの」とのかかわりからしか学べない。 たとえば、「他人」。自分とはそもそも、人とコミュニケーションを取ることからしか「知る」ことができない。(p.177) 童貞の悶絶、モウソウ、勘違いや思い込み。そんなのを自分の童貞時代をもとにぐりぐりと書いた本。 【童貞はある程度離れた距離から見ることで、笑える存在にもなる】 しかし、童貞ド真ん中時代は疾風怒濤なのであろう。笑えるまでには、あとちょっと必要。 松江は在日韓国人の三世。 小学生の頃にみた「トワイライトゾーン」というオムニバスのSF映画で、嫌な目にあっている。 監督の一人がスピルバーグだったから、ワクワクドキドキするような内容を期待していたら、オムニバスの第一話は、人種差別主義者が時空を超えて、自分が「差別される側」になるという物語だった。 ▼ 僕はこの「人が差別される」ことを描いた物語に、震えるほど恐怖した。「戦争中、おじいちゃんやおばあちゃんは、もしかしたらこういう怖い目に遭っていたのかもしれない。僕だって、時代が違っていたらそうなっていたかも。いや、もしかしたらいまだって…」。映画やテレビで描かれている少数派、虐げられていて「かわいそうな」マイノリティの姿を目にするたびに、僕の心臓は恐怖でバクバクと鳴り出すのだ。 …スピルバーグのバカ。(p.93) 松江が幼稚園の頃に、家族は日本に帰化をした。家の中で繰り返し言われてきたのは「もうふつうの日本人だから、何も心配することはない」という言葉。しかし、松江は、これを聞いてどんどん不安になるのだ。 ▼「もし日本に帰化をしないで、韓国人のままだったら、何か『心配するようなこと』が起きるのかな?」(p.91) 祖父からも、失敗したら「あの人は韓国人だから」と言われる、だからそう思われないように努力しなければならないと言い聞かされてきた。「ふつう」でありたい、「ふつう」でありたい、「平均」からはずれたくない、周囲から浮きたくない。だから何の根拠もない雑誌の数字「童貞喪失の平均年齢」に本気で追いつきたかった松江。 そんな、童貞時代のおろかさ、頑なさも含めて書かれた、笑える本。
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