アイヒマン調書 の商品レビュー
アーレントの「エルサレムのアイヒマン」を読んだので、おおまかな内容はわかっているつもりで、確認のために読んだ感じ。 だったのだが、これはちょっとスリリングであった。取り調べ側が、アイヒマンの「わたしは上からの命令に従っただけ」「それはわたしの担当ではない」というのらりくらりとし...
アーレントの「エルサレムのアイヒマン」を読んだので、おおまかな内容はわかっているつもりで、確認のために読んだ感じ。 だったのだが、これはちょっとスリリングであった。取り調べ側が、アイヒマンの「わたしは上からの命令に従っただけ」「それはわたしの担当ではない」というのらりくらりとした回答に対して、「では、この文書をみてください。ここにあなたのサインがありますよね」みたいな形で事実を突きつけながら、追い込んでいく。 ちょっとした心理戦をみているような感じで、徐々に、アイヒマンもかなりの部分を認めざるを得ないところに追い詰められている。でも、結局は、「上から命令されれば、当時はしかったなかった」というところに発言は収まっていくのだけど。 アーレントもアイヒマン裁判の資料として数千ページの警察の取り調べ調書を読んだと言っているが、アーレントが問題にしているやりとりはあまり確認できなかった。 この本は、録音記録からの編集ということなので、裁判資料とはことなるということなのかな。 事実関係として新しいことはなかったが(というかアイヒマンの言っていることの信憑性は低い)、アイヒマンという人の性格といったものは、よりリアリティをもって感じることができた。 状況に応じて、都合よく発言を変えていく、そして取り調べの警察に対して、媚びるような発言をするところとか、まさに「悪の陳腐さ」だな。そして、人の気持ちを思いやるということがほとんど感じられないところも、陳腐な役人がとてつもない犯罪を行うことができた理由の一つとして、感じた。
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アイヒマンはアウシュビッツとマイダネク強制収容所を視察した結果、そこでの抹殺工程を考え出した人物でもあった。ただし、彼は他人が苦しむのを見て快楽を覚えるサディストではなかった。アイヒマンはほとんど事務所の中で自らの仕事に線ねんし、結果として数百万人の人間を死に追いやったのである。...
アイヒマンはアウシュビッツとマイダネク強制収容所を視察した結果、そこでの抹殺工程を考え出した人物でもあった。ただし、彼は他人が苦しむのを見て快楽を覚えるサディストではなかった。アイヒマンはほとんど事務所の中で自らの仕事に線ねんし、結果として数百万人の人間を死に追いやったのである。一官僚として、彼は死に追いやられる人間の苦痛に対し、何の感情も 想像力も有してはいなかった。彼の尋問に当たったイスラエルの警察のレスから、自分の父親もまた大量虐殺の犠牲者の一人だったことを聞いて、アイヒマンは「驚愕」する。しかし、そのことに対しても、彼は部分的な責任しか認めようとはしなかった。彼自身は、レスの父親を含む数百万の人間の死に直接関与したわけではなく、単に移送したに過ぎない、それも命令によって。彼は再三にわたって、自分の責任と権限が強制収容所の入り口の手前だけに限られていたことを主張した。強制労働も殺人も遺体の償却も、彼の権限外だった。
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ホロコーストを実施する機関の重要な一員であったアイヒマンの尋問記録。 非常に興味深い。 必読書とも言える。
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被害者は400万人なのか600万人なのかを質していくイスラエル警察に対し、アイヒマンは直接殺人に関与したことは無いと強弁する。組織内での歯車的立場を強調するアイヒマンの供述。対してイスラエル警察は、歯車のレベルにとどまるのか反駁を試み、証拠を積み上げ追い込んでいく。 凡庸で非英...
被害者は400万人なのか600万人なのかを質していくイスラエル警察に対し、アイヒマンは直接殺人に関与したことは無いと強弁する。組織内での歯車的立場を強調するアイヒマンの供述。対してイスラエル警察は、歯車のレベルにとどまるのか反駁を試み、証拠を積み上げ追い込んでいく。 凡庸で非英雄的な人物が(人物こそ)、特殊状況下で悪魔的殺戮の推進エンジンを担う。このことこそ恐ろしい。アイヒマンがいなければ別のアイヒマン的人物が堅実に代務を執っただろうことは想像できる。時代を現代に変えても、国をドイツ以外に変えても、それは成り立つだろうことを、本書は静かに訴えている。
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権力と感情は人を強く動かす。しかし、ひとりの人間が持つ力は小さい。組織やそのシステムが、自己回帰的に増幅していくことに、本当の恐ろしさはある。 アイヒマンは、自身がシステムの一部でしかないことを強調した。システムの一部として忠実に働くことが彼の役割だったと。彼はその責任を、上司に...
権力と感情は人を強く動かす。しかし、ひとりの人間が持つ力は小さい。組織やそのシステムが、自己回帰的に増幅していくことに、本当の恐ろしさはある。 アイヒマンは、自身がシステムの一部でしかないことを強調した。システムの一部として忠実に働くことが彼の役割だったと。彼はその責任を、上司に、組織に、時代に転嫁した。善悪ではなく、それが役割だったと。この責任の欠如が、集合的な恐怖と暴力の衝動が、不気味なシステムを形成し、不合理な惨状をもたらした。 夜と霧と併読すると、あまりの恐ろしさに身震いする。
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手に入れたばかりでまだ目次しか見ていません。アーレントの『イェルサレムのアイヒマン』では、アイヒマンは、ごく普通の平凡な軍人、人並みの良心すらもっていた人間が、全体主義運動の過程でいかにして凡庸な人間が恐るべき犯罪をなしえたか、アイヒマン自身が敗戦国の軍人として被告席にいるのであ...
手に入れたばかりでまだ目次しか見ていません。アーレントの『イェルサレムのアイヒマン』では、アイヒマンは、ごく普通の平凡な軍人、人並みの良心すらもっていた人間が、全体主義運動の過程でいかにして凡庸な人間が恐るべき犯罪をなしえたか、アイヒマン自身が敗戦国の軍人として被告席にいるのであって、ユダヤ人虐殺の犯罪者だとは考えてもいなかったと分析しています。本書でさらに詳しくアイヒマンの人となりを読むことが楽しみです。最近、『ヒトラーを支持したドイツ国民』はじめ、全体主義体制下のごく普通の市民の良識はどうなっていたのかについての調査記録も出版されています。アーレントが著作執筆時には手にはいらなかったであろう記録が相次いで出版されているのは、世界に蔓延する不安のあらわれでしょうか。
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