帰還 の商品レビュー
一巻を若かりし頃に読んで、これもしばらくしてから読んで、今、人生を一周した初老の女性のものがたりを同世代の視点で読む。読書はいつ読むかも大事で、面白いなあと思う。 大賢人だった過去をもつおじさんのゲドも愛おしい。 テルーの傷も、己と重なる。 続きも楽しみ。
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ル・グウィンが16年もたっているのに続編を出す決心をした理由を、映画ゲド戦記の宣伝用冊子「ゲドを読む」の中で文化人類学者の中沢新一さんは、こんなふうに語っています。 『当時のフェミニズムは、男性が持っている力の領域に女性が参与して、その力を自分たちに取り入れていくという考えが広がっていました。そこで大学教授になろう、経営者になろう、アーティストとして自活しようという女性たちが出てきました。家庭でも男性に従属しない人間になって、しかも母親としても伝統的なあり方を否定していこうという風潮も強かった。そういうフェミニズム思想がアメリカで盛り上がってきたときに、ル・グウィンは、それに対して違和感を持ったのだと思います。前の三部作では、ベトナム戦争以前の男性中心的な白人社会の価値観をよしとせずに、黒人たちの古代の価値観による大転換をはかりました。そして今度は、フェミニズムに対して「それもちがう」と思いはじめたのだろうと思います。』 これには異論もあるでしょうが、私は、この中沢さんのコメントを「ゲド戦記」を読む前に読んでしまったので、そうゆう考え方から離れられませんが、「帰還」は少なくともファンタジーではないと思います。「帰還」は中学生の時に三巻まで読んだ人が16年後の30歳で読む大人の本ではないでしょうか? また、中沢さんの話の中には、ゲドにはモデルがいて,それはフランスのグロタンディークという天才的な数学者だというのもありました。
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「さいはての島へ」から18年を経て発表された続編です。舞台はゲドが竜に乗って飛び去った直後の、故郷ゴント島。 「こわれた腕環」の後、農夫と結婚して「普通のおばさん」になったテナーと、魔法を使い果たして「普通のおじさん」になったゲドが再会します。そして、男たちから理不尽な暴力を受け...
「さいはての島へ」から18年を経て発表された続編です。舞台はゲドが竜に乗って飛び去った直後の、故郷ゴント島。 「こわれた腕環」の後、農夫と結婚して「普通のおばさん」になったテナーと、魔法を使い果たして「普通のおじさん」になったゲドが再会します。そして、男たちから理不尽な暴力を受け、その後も付け狙われる少女テルー。ストーリーにも増して心に刺さってくるのは、現代私たちの社会にもある人権の問題です。 ラストでテルー(真の名はテハヌー)の秘密が明かされますが、物語はまだこれからだ、と暗示する終わり方ですよね。
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話の中で出て来る男女の差のようなものが、女性の作者ならではだと思った。 テナーの、2巻とはまた少し違う葛藤が描かれていて印象的だった。
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ぐっと大人向けの話に変わったなという印象。 テナーとコバとの葛藤はまさに自分自身がどこかで抱えているものだったので読んでいてしんどかった。 フェミニズムと自分自身が何者であるのかの葛藤、彼女と彼女の周りに生きる人々とのズレに考えさせられるというか、時に怒りを覚えて頁をめくるのがかなり時間がかかってしまった。 ゲドの自分自身の全てだったものを失った姿が印象的。 テハヌーのトリックがめちゃくちゃいいのに映画で全てを台無しにされていて悲しい
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3巻から18年を経て刊行されたという4巻 この年月があったから書けたんだろうなぁという内容 1巻のゲド、2巻のテナー、3巻のレバンネンと、ティーンエイジャーを中心に据えてきたのとはガラリと変わり、魔法を失ったゲドと、農園の後家となったテナーの話 3巻の終わりにあったように、ゲドのこの先は誰も知らないめでたしめでたしっていうのも綺麗だけど、たぶん作者が年齢を重ねる中で、めでたしめでたしの先に思いを馳せるようになっていったんだろうなと 男女の間の超えられない差が語られる箇所が多く、女性が書いてるんだなと実感 テルーの存在はいささか突飛
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すごかった。全てをやり遂げた男と女のその後の物語だ、とまったりと読んでいたら、最終章で披露されるテルーの秘密に全部持ってかれた。
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今回も面白かった!テルー=テハヌー=竜の子、だったのねー!っていうのはゲド戦記の映画が台無しにしてくれたけど。今までの作品でも、ゲドやテナーが闇と闘う話で、人の心の闇に触れることが多かったけど、今回は根深い現代にもある闇な感じがしたな。魔法は男にしか使えないもので、女は下に見られていて。テルーが強姦され火の中に入れられたりと恐ろしい目にあったことだったり、テナーが自我に目覚めて男とは?女とは?自分の人生や役割とは?ってなるところだったり。大人向けフィクションだと思います。ゲドはついに魔法の力を失って、普通の男として生き、テナーと夫婦になり幸せを見出していきました。
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ゲドの帰還だと思っていたら ほかにもたくさんの帰還があって、とてもよかった。 歴史の影になっていたテナーの物語。 ゲドとテナーはきっと恋人になるだろうな、と思っていたので、長い時間がかかったけど本当に嬉しい。 この巻はまさにテナーと女性の物語で、 魔法を失ったゲドはふつうのおじさんになっていて寂しいけど、テナーがふつうのおばさんとして生きていた期間が知れてよかった。 世界を救っているかもしれないけど自分に逢いに来てくれない、ゲドのことなんか、待っていられなかったよね。わかるよ。なぜか待っててもらえると思っているんだ、男って。 女性では大賢人になれないということに憤り、 皿を洗えない息子に「育てかたを間違えた!」と絶望するテナーに、ここにきて親近感を感じてしまった。 これは私が大人になってから読んでよかったなと思えるところ。 最後にテルーが目覚めるところでおわる。 続きも楽しみ。
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オジオンが死ぬ。 傷ついたゲドが竜に運ばれてくる。 今回の主人公はテナーだ。彼女はすでにふたりの子どもがいる。そして、捨てられていた子どもテルーを育てている。 4巻になって、大人向けの小説になっていた。話の内容もそうだが、ひどく内省的だ。今までは、冒険があったが、今回はそれがな...
オジオンが死ぬ。 傷ついたゲドが竜に運ばれてくる。 今回の主人公はテナーだ。彼女はすでにふたりの子どもがいる。そして、捨てられていた子どもテルーを育てている。 4巻になって、大人向けの小説になっていた。話の内容もそうだが、ひどく内省的だ。今までは、冒険があったが、今回はそれがない。日常の中での哲学的な考察が続く。 エンターテイメントは控えめで、人間として生きていくことについて熟考した小説となっている。 行きて帰りし物語という形で言うと、オジオンの家を出て自分の家庭を持ったという意味では帰還といえる。また、ゲドの帰還でもあるし、テナーの娘テルーの帰還でもある。いろいろな人物が帰還する。
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