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砂漠 の商品レビュー

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2019/01/02
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フランスのノーベル賞作家、ル・クレジオの代表作のひとつとのこと。20世紀初頭、モロッコはフランスの猛烈な侵略にさらされていた。この小説は、難民となって砂漠をさまよう人々の悲惨な運命と、砂漠と海に抱かれながら育ち、移民としてマルセイユに渡る少女の人生を交錯させながら進んでいく。 ストーリーらしいストーリーはない、と言ってよいくらい。砂漠の逃避行ではひたすら渇きと飢えが描かれ、やっとたどり着いたオアシスの街の城壁を見たときの人々の喜び、そしてその扉が決して開かれなかった時の絶望が淡々と書き綴られる。 貧しい少女ララの章も同様だ。青い空、照り返す太陽、ミツバチの羽音、洞窟の深閑とした水の気配、そして聾唖の羊飼いとの愛。移民としてたどり着いたマルセイユでは一転して徹底的に色彩を失った灰色の、そしてどん底の生活がこれでもかと描かれる。 武装蜂起は仏軍の機関銃になぎ倒され、難民たちは砂丘のかなたに去っていく。ララは再び故郷の街に戻る。ストーリーとしての「決着」はない。しかし、彼女の最後のシーンは不思議な、静謐な感動に満ちている。「ここへは必ず誰かがくる、いちじくの木陰はとても気持がいいし、涼しいから。」(P.332) 漠然とだが、読んでいる間ずっと何かが似ていると思っていたのは中上健次の小説だった。むせ返るような夏芙蓉の白さ、花の匂い。どちらも「神話的な」という形容がされるようだが、この二人の小説のどういう部分がこの言葉を思い起こさせるんだろう・・・?

Posted byブクログ