生物系統地理学 の商品レビュー
本書は,生物の多様性・進化・保全に関心がある方には必携の書と言えるだろう.(生物)系統地理学を扱った教科書としては,おそらく唯一,日本語で読むことができる貴重な本であるので,特に当分野の初学者の方々には,人類・植物・動物・昆虫その他の専門の生物種を問わず,お薦めである. 系...
本書は,生物の多様性・進化・保全に関心がある方には必携の書と言えるだろう.(生物)系統地理学を扱った教科書としては,おそらく唯一,日本語で読むことができる貴重な本であるので,特に当分野の初学者の方々には,人類・植物・動物・昆虫その他の専門の生物種を問わず,お薦めである. 系統地理学とは,地球上の様々な場所に生息する様々な生物種が,どのような歴史的経緯を辿って,現在のような地理的分布を得てきたのか,現在の生息環境に見られるように至ったのかについて,主にDNAデータの解析から明らかにしていく学問領域である. DNA解析の結果に基づき,複雑な様相を見せる生物の世界が,どのような歴史的要因によって成り立ってきたのか(例えば人類の祖先はどこに住んでいてどのようにして世界中へ広まったのか?ある深海魚はどこから来たのか?熱帯雨林はどうやって形成されてきたのか?等)を考える.さらに,各種の生物が各々の棲む環境へどのように適応してきたのかについても,DNA解析から得た強固な枠組みに基づいて考察する. 上記の系統地理学から引き出される知見・視座は,恐竜絶滅以来の「大量絶滅時代」とも危惧される現代にとって,きわめて重要であるだろう.この有限の地球に同居している種々の生物の多様性とその成立過程(進化史)とを科学的に把握し,その貴重さをきちんと評価・理解することによってこそ,有効な保全方策を考えることができる.それを行うために,系統地理学は,分類学,生物地理学,生態地理学などの知見を統合し,さらに,それらに歴史的な意味づけを提供することができる. 本書は,系統地理学の成立と展開に中心的な役割を果たしてきたカリフォルニア大学アーバイン校のジョン・C・エイビス教授が,自ら著した本の全訳である.原著の出版は 2000 年と既に 10 年近くが経つが,その内容は決して古くはない.むしろ,今後の進化・多様性研究,生物保全学などの展開を考える上でも一度立ち返るべき,基礎理論と基本的応用例がしっかりと記されたランドマーク的な書であると言えるだろう.
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