愛蔵と泡盛酒場『山原船』物語 の商品レビュー
物語の主人公、新里愛蔵さんは1939年に沖縄の小さな島で生まれた。 一家は極貧の生活で早くから沖縄に出て働く。脊椎カリエスに罹患して本土に送られ闘病生活。 小さい頃から手にしていた三線が彼の友達だった。 タクシー運転手などをしながら中野に沖縄居酒屋を始める。 そこはまだ沖縄ブーム...
物語の主人公、新里愛蔵さんは1939年に沖縄の小さな島で生まれた。 一家は極貧の生活で早くから沖縄に出て働く。脊椎カリエスに罹患して本土に送られ闘病生活。 小さい頃から手にしていた三線が彼の友達だった。 タクシー運転手などをしながら中野に沖縄居酒屋を始める。 そこはまだ沖縄ブームが起こる前の梁山泊のような場所になった。 愛蔵さんは自分のことを「脳みそがない」からが口癖、万人を包むような優しさで沖縄の普通の音楽を奏でていた。 沖縄の言葉で「テーゲー」といういい加減さ、店は料金自己申告制、カウンターの中で客が勝手に酒をついでいるような場所だった。 何にもこだわらない愛蔵でも本土の沖縄音楽ブームにちょっと違和感を感じたのだろう。60歳を過ぎてタイのチェンマイに移住する。まるで「寅さん」みたいな人だ。 写真でみる愛蔵の顔は、なんとも美しく人間の原型のような顔だ。 山原船を愛した人々が今、チェンマイで斃れ半身不随の愛蔵を心配して「年金」が支給されるよう運動をしている。 本土の中での沖縄を生きてきた愛蔵の人生はとても深い。
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著者の下川さんは、アジア貧乏旅行系の本に興味がある人なら知らない人はいないと言えるルポライター。彼がチェンマイの飲み屋で偶然出会ったのが、中野の伝説の居酒屋「山原船」をたたんでタイに移住した新里愛蔵さんだった……というところから始まる本。愛蔵さんには昔ずいぶんお世話になったし、そ...
著者の下川さんは、アジア貧乏旅行系の本に興味がある人なら知らない人はいないと言えるルポライター。彼がチェンマイの飲み屋で偶然出会ったのが、中野の伝説の居酒屋「山原船」をたたんでタイに移住した新里愛蔵さんだった……というところから始まる本。愛蔵さんには昔ずいぶんお世話になったし、その半生についても知り合いに色々聞かされていたけど、そのエピソードの断片がラインにつながって、「へー、そうだったのかぁ」となんともいえない感慨におそわれました。 愛蔵さんの人生をたどるだけで、戦後から今に至るまでの沖縄問題の一面にも光があたるし、「老後を物価の安い海外で暮らす」という、言葉だけ聞けばパラダイスのような選択の、決してパラダイスじゃない一面も見えてくるし……
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