ことばと社会 多言語社会研究(11号) の商品レビュー
日本におけるマイノリティの言語の歴史に関して、自分が今までいかに無知であったかを教えてくれた一冊。日本で生きていながら、「一国一言語」の原則が日常の隅々までに定着している社会のあり方に対する、クリティカルな視点が欠けていたことを痛感した。その意味で一番印象的だったのは、やはり『移...
日本におけるマイノリティの言語の歴史に関して、自分が今までいかに無知であったかを教えてくれた一冊。日本で生きていながら、「一国一言語」の原則が日常の隅々までに定着している社会のあり方に対する、クリティカルな視点が欠けていたことを痛感した。その意味で一番印象的だったのは、やはり『移民女性と識字問題について』及び、コラム『琉球孤の言語』。自身が欧州の移民研究を行なっているため、『在米ラテンアメリカ系住民のエンパワーメントとバイリンガル教育』も、新しい視野を開拓してくれるように感じて面白かった。
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『ことばと社会』という雑誌の11号。これも、中村地区のレファレンスを頼んだら出てきた。藤井幸之助の「連載報告・多言語社会ニッポン」に、「伊丹市中村地区と、"日韓ピビンパップ(ごちゃまぜ)演劇"『焼き肉ドラゴン』」という数ページがあった。 「飛行少年」だった藤...
『ことばと社会』という雑誌の11号。これも、中村地区のレファレンスを頼んだら出てきた。藤井幸之助の「連載報告・多言語社会ニッポン」に、「伊丹市中村地区と、"日韓ピビンパップ(ごちゃまぜ)演劇"『焼き肉ドラゴン』」という数ページがあった。 「飛行少年」だった藤井は豊中市の小学生で、小さなカメラをもって空港へ行き、飛行機の写真を撮っていたという。「その滑走路の向こうに朝鮮人の暮らす中村地区があるとは思いもよらなかった」(p.138)と書いている。 そして日韓合同公演となった演劇『焼き肉ドラゴン』の舞台が中村地区だったという話が書かれている。参考資料に掲げられている、この演劇の作者・鄭義信のインタビューはここ(http://www.performingarts.jp/J/art_interview/0711/1.html)。 中村地区についてふれられているのは巻末の数ページだったが、最初に戻ると、「移民と言語」の特集にあたっての「まえがき」を定松文が書いている。 ▼…「移民」という「移動する」「権利を主張する場が不確かな」人々を対象とすることはどのような意味を研究する側、論ずる側にもたらすのか。移民は地理的領域の範囲内で保障されている現在の権利や生活という条件の下「マイノリティ」として位置づけられつつ、その主体性を阻むものが社会側の「内部/外部」の障壁であることを示唆する。…(中略)… いやおうなく、論じる側は「内部/外部」のせめぎあいの立ち位置を、居心地悪くも感じ、再認識させられる。研究する、論ずる「対象」を自己から離し、議論の遡上(※ママ)におき、分類し、しかも著者は中立に立つことが可能かのように錯覚させる研究領域ではない。…(p.4) ※ここ「遡上」と書いてあるが「俎上」であろう 続く定松の論文「移民と言語」は、サブタイトルの「人は移動するという前提から言語と社会をとらえる」がキモやと思った。 移動することの保障、多様性の保障としての「言語政策」は、ありうるのか? 言語学のこまかいところはよくわからないが、読んでいて、片倉もとこの『「移動文化」考』をまた読みたくなった。 定松は論文をこうしめくくる。 ▼移民は二つ以上の言語を話し、その思考の複層と深化は、他者として生きなければならないからこそ、社会への鋭い思索と洞察として結晶化される。非常に稀な人々であろうが、アーレント、サイード、スピヴァク、バウマンなど、移民として多言語で生きたからこその知に私たちは負っているのである。(p.21) 収録されている論文のうち、もう1本、金美善の「移民女性と識字問題について 夜間中学に学ぶ在日コリアン一世の識字戦略」を読んだ。 近代社会のなかで非識字はどう捉えられているか、という話が強く印象に残った。 ▼…非識字が無教養や無節操と同義ではないことは明らかであるが、「文盲」ということばに象徴される識字イデオロギーは、識字者との接点に暮らす非識字者を社会の脱落者、日陰者と思いこませてきたことは間違いない。(p.71) 金は、在日コリアン一世の女性たちの語りから、「非識字者であり続けることは、伝達障害がもたらす障害より、心的障害がむしろ大きな意味を持っていたのではないか」(p.89)と考える。それは、語りのなかで彼女たちが「文字獲得がいかに社会参加を可能にし、また新しい世界にふれることの満足感をあたえる、象徴的な役割を果たしてきたか」(pp.89-90)を語っているところから読みとれるという。 心的障害、それは心のバリアだろうか。
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