松本清張短編全集(03) の商品レビュー
松本清張短編の金字塔である「張込み」を収録。何度読んでもおもしろい。犯人を捕まえる刑事が主人公でありながら、犯人探しでも犯人逮捕もメインテーマではないのは当時としては画期的だった。今で言えば、「ミステリー小説」と呼ばれる新しいタイプの犯罪推理小説の誕生。 そして、「菊枕」、「断...
松本清張短編の金字塔である「張込み」を収録。何度読んでもおもしろい。犯人を捕まえる刑事が主人公でありながら、犯人探しでも犯人逮捕もメインテーマではないのは当時としては画期的だった。今で言えば、「ミステリー小説」と呼ばれる新しいタイプの犯罪推理小説の誕生。 そして、「菊枕」、「断碑」、「石の骨」はいずれも天才だが、協調性に難のある知識人の悲劇を描く。一つの知識を極めたところで、世渡り上手にはかなわない。当時の松本清張もそう思ってたのだろう。
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小泉孝太郎、若村まゆみ、忍成修吾のドラマ「張込み」を見ました。映画館「悪人」のような、静かな哀しさ。 ラスト、若村まゆみ演じる後妻が、一見幸せな平凡な毎日が嫌で嫌でしょうがなかった、というところが、ああそうなんだなあって。自分を殺して生きてきたんだなあって。誰も悪くないのに、とて...
小泉孝太郎、若村まゆみ、忍成修吾のドラマ「張込み」を見ました。映画館「悪人」のような、静かな哀しさ。 ラスト、若村まゆみ演じる後妻が、一見幸せな平凡な毎日が嫌で嫌でしょうがなかった、というところが、ああそうなんだなあって。自分を殺して生きてきたんだなあって。誰も悪くないのに、とても哀しい。 ちなみに小泉孝太郎は品がありすぎて、強気な刑事は似合いませんね…
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妬み、嫉み、僻み、恨み辛み……そういった鬱屈した人間の負の感情と自身のその感情に翻弄されて苦難の人生を歩んだ人間を描いた作品が多く収録されているこの短編集の中で、表題作の「張込み」は張り込み中の刑事の視点を通して一人の平凡な主婦の灰色の生活が一瞬色艶やかに燃えさかる様子を描いてい...
妬み、嫉み、僻み、恨み辛み……そういった鬱屈した人間の負の感情と自身のその感情に翻弄されて苦難の人生を歩んだ人間を描いた作品が多く収録されているこの短編集の中で、表題作の「張込み」は張り込み中の刑事の視点を通して一人の平凡な主婦の灰色の生活が一瞬色艶やかに燃えさかる様子を描いていて一服の清涼剤ですらある。最後に収録されている「佐渡流人行」のラストのどんでん返しも実に私好みでした。
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20101115 「私は清張のあまり良い読者ではなかった」に始まる解説の――社会派云々の――件には思わず頷いてしまったが、初期の短編集は歴史や人物伝に取材したものが多くミステリ色も薄い(清張本人によると、社会派ミステリの萌芽がみられるのが表題作「張り込み」だと言う)。 低い生ま...
20101115 「私は清張のあまり良い読者ではなかった」に始まる解説の――社会派云々の――件には思わず頷いてしまったが、初期の短編集は歴史や人物伝に取材したものが多くミステリ色も薄い(清張本人によると、社会派ミステリの萌芽がみられるのが表題作「張り込み」だと言う)。 低い生まれの、しかし才能と努力に恵まれた者たちの上昇志向、功名心、なんとか認められようと欲する足掻き、そして生まれながらに恵まれていた者たちへの嫉妬や羨望、焦り、そういった題材をひたすらに描いて重苦しい作品が並ぶ。先に読んだ「青のある断層」もそうだったが、とにかく人間の醜さ、醜さといって語弊があるようなら弱さ――弱いからこそ自己を護ろうとして周りに刃を向ける――を濾過した苦い涙のようなものが、一雫ずつ額にしたたってくるかのごとく題材も筆致も暗い。読んでいて息苦しさを感じる。 これらの短編集は清張がまだ朝日新聞に勤めており、安定した生活を手放して「作家」の足に体重を預けきるのをためらっていたころに書かれたものだそうだ。
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