未来と対話する歴史 の商品レビュー
この本を読んで、何だか「本の読み方」を習ったような気がしました。本著の作者早瀬晋三先生は東南アジア史とくにフィリピン史の専門です。本の内容は2つに分かれ、まず「東南アジア史研究から問う歴史教育」そして「書評空間」つまり氏が紀伊國屋書店のブログで書いた書評を構成し直しています。前半...
この本を読んで、何だか「本の読み方」を習ったような気がしました。本著の作者早瀬晋三先生は東南アジア史とくにフィリピン史の専門です。本の内容は2つに分かれ、まず「東南アジア史研究から問う歴史教育」そして「書評空間」つまり氏が紀伊國屋書店のブログで書いた書評を構成し直しています。前半部分では、私は前々回のzhangtan文庫の紹介で日本の歴史教科書は(十分ではないが)様々な問題が克服されたと書きました。しかし、やはりまだ十分ではなく、「陸域」「ヨーロッパ」史観から十分に脱却できていないということを知らされました。例えばスマトラ島やジャワ島、モルッカ諸島などがオランダ領として色塗りされた某教科書の17世紀半ばの世界地図を紹介し、「商館がおかれたところが「植民地」であるなら、出島にオランダ商館があった日本も「オランダ領」としなければならない」と指摘する。まさにその通りであり、当時オランダはバタヴィアなど彼らが利用した港市とその周辺しか実行支配が及んでいないにもかかわらず、その全域があたかもオランダによる支配がなされていたような記述がなされてある。これはまさに西洋の都合のいい記述を無批判に受け継いだ失点である。 「書評空間」では、様々な地域・時代の歴史関係の本、そして歴史以外の本と、著者が読んだ様々な本を紹介している。これがまた参考になるのである。東南アジアという、現在の国民国家ではとらえられない枠組みであり、しかし史料に制限のある地域を専門としている著者の視点は、それゆえ広く、深い。さまざまな事柄からいろいろなことを吸収しようという著者の学問に対する貪欲さ・真摯さが伝わってくる。また、私自身は著者の言う(私の修論はまさにこれに当てはまる人々が対象であったという意味で)「陸域、温帯の定着農耕民社会、成人男子エリート」が主体であった中国古代史を専門としています。ですから、著者の指摘にはいちいち目からウロコを落として読んでいました。とくに46ページの「ある地域やある時代だけを研究対象とすれば、その地域や時代が相対化できないから、なにが特殊かわからないはずだ」という箇所は、指摘されれば当たり前のことだが、常にこのことを頭に入れて授業をしているかと言われれば頷くことはできない。一人の歴史教育者として、大いに刺激を受けた本である。
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